黄砂
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黄砂(こうさ)とは東アジア・中央アジア内陸部の砂漠や乾燥した地域の砂が強風を伴う砂嵐などによって上空に巻き上げられ、偏西風に乗って飛来し、地上に降り注ぐ気象現象、および降り注ぐ砂のことである。
目次 |
[編集] 概要
中国では「黄沙(ホワンシャ)」または「黄砂」と呼ばれているほか、「黄塵」「亞洲粉塵」「黄河風」 「中國沙塵暴」といった別名がある。韓国では「황사(ファンサ = 黄砂、黄沙)」、日本では前述のとおり「黄砂」と呼ばれる。英語圏ではYellow sand、Asian dust、Yellow dust、Yellow wind、China dust stormsなどと呼ばれ、これらは学術分野でも使用される。このほか、歌や文章に使われる霾(ばい,bai)などの別名があるほか、地域的な名称もいくつか存在する。
大気中を浮遊するものは、エアロゾル(浮遊粉塵)に含まれる。黄砂の落下は降塵現象、黄砂による大気の見通しの悪化は視程障害現象である。
[編集] 発生・移動・落下
主な発生地としては、西からタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原がある。国で言えば中国、モンゴルにあたる。このほか、カザフスタン東部など中央アジア諸国の砂漠・乾燥地域<ref name="c">黄砂の移流・拡散 Q&A 黄砂解析鹿児島グループ</ref>も発生源ではないかと見られている。発生地は砂漠であるとする説、砂漠とまではならない乾燥した地域であるとする説、その両方であるとする説がある(下の項参照)。ただし、砂が舞い上がる条件が整えばどこでも発生しうると考えられており、必ずしも前述の場所が発生地とは限らない。実際に、アジアの広い地域で黄砂のような砂の舞い上がりが発生している<ref name="d">異常気象レポート2005 黄砂とは 気象庁</ref>。
これらの発生地域はおおむね年間降水量が500mmを下回り、所によっては100mm以下という乾燥地帯となっている<ref>乾燥地とは 井上光弘 鳥取大学乾燥地研究センター 緑化保全部門・土地保全分野、2007年5月13日閲覧。</ref>。そのため、地表が砂で覆われている地域では、風により簡単に砂が舞い上がってしまう。砂が舞い上がる条件として、タクラマカン・ゴビ・黄土高原において上空10mの平均風速が5m/s以上、砂塵嵐(ダストストーム, Dust storm)となる条件として、ゴビで10m/s、タクラマカン・黄土高原で6m/sという研究結果がある<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。弱い風の場合は、舞い上がった後すぐ落下するが、強い風の場合は、長時間に渡って風に乗り、遠くまで運ばれることになる。また、塵旋風などの上昇気流を伴う風によって、高い高度まで砂が巻き上げられた場合や、山沿いを風が駆け上る場合も、遠くまで運ばれると考えられている。
強い風の場合、砂が地上付近から上空高くまで巻き上げられ、沙塵暴(簡体字で「沙尘暴」、日本語の砂塵嵐にあたる)と呼ばれる激しい砂嵐となる。砂が巻き上げられる高さとして、上空7~8kmという観測結果があるが、観測装置が故障することがあるためこれが平均的な値かは不明である<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
東アジアや中央アジアなどの広い範囲には偏西風が吹いているため、黄砂は北や南にずれながらも全体的に東に流される。気圧配置によっては、西に流されることもある。粒の大きい砂は重力などによって落下するため、高濃度の砂嵐は発生地から遠い場所までは届かない。ただし、発達中の低気圧によって砂塵嵐が発生した場合、空気かがき混ぜられて遠くまで届くこともある。数千kmも運ばれて日本などに到達するのは粒の細かい砂のほうが多い。日本付近では、最大で上空6~7kmまでの高さに砂の粒子が存在する。
黄砂の年間発生量は、年間2億~3億tで、降下量は日本で1年間に1~5t/km2、北京で1ヵ月間に15t/km2とされている<ref>黄砂の話 長崎県衛生公害研究所</ref>。ただしその量は、発生地の天候に左右されると考えられている。発生地で降水量が多いとその後の黄砂は減り、逆に降水量が少ないと、黄砂が増える傾向にある。しかし、黄砂の量は降水量よりもむしろ嵐による強風の程度や頻度に左右されることが多い。現在、黄砂の大部分は、前述の発生地の乾燥地帯を襲う砂嵐によって大量の砂が舞い上がって風に乗り、広範囲に広がっていくうちに地上に落下すると考えられている。そのため、強い低気圧が通過した前後などは砂嵐が多く発生し、黄砂の量も多くなる。ただ、降水量によって変化する土壌の乾燥状態、積雪や植物の有無といった地面の状態、砂粒の大きさ(粒が小さいほど舞い上がりやすい)なども関係しているとされる。
時期としては、春に最も多く発生する。これは、降水量が少なく地面が乾燥する冬は、シベリア高気圧の影響で風があまり強くない穏やかな天候が続くため、黄砂が発生しにくいが、春になって高気圧の勢力が弱まるとともに、偏西風が強まり、低気圧が発達しながら通過するなどして風が強い日が増え、黄砂の発生も増えるためと考えられている。春の中盤に入り暖かくなってくると植物が増え、夏になると雨が多くなるため、次第に黄砂の量は減り、秋に最少となる<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
黄砂の量が比較的薄く、空気中を漂っている場合は、多少の黄味を帯びた霞が発生し、普段よりも視界が悪くなるが、日常生活に支障が出るほどではない。しかし、大量の黄砂が落下した場合は、視界が非常に悪くなったり洗濯物が汚れたりといった被害や、健康への被害が発生する。そのため濃度が高い中国や韓国では、乗用車の速度規制が行われたり、マスク等の着用を奨励したり外出を控えるよう促す情報が出される。気候によっては冬場でも発生し、これが雪に混じると積雪が黄色く見えることもある。
黄砂は、大気汚染物質などと一緒に大気中に長くとどまり、周辺の雲の色を茶色く変色させ、農作物への被害が指摘されている褐色雲をつくる事もある。褐色雲の場合は、黄砂単独ではなく雨と一緒に地上に降ることが多い。大規模な黄砂が発生したときは、気象衛星などの画像に写り込むことがある。
[編集] 観測
黄砂の観測は、気象観測としては目視が中心で、降る砂の量や視程といった大気の状態の観測を基に広く情報が発表される。研究や大気環境の監視(大気汚染の観測など)を目的とする精密な観測においては、目的に応じて、LIDAR(レーザーレーダー)や日射計、放射計、比濁計(ネフェロメーター)、吸光計、パーティクルカウンター、質量濃度計、飛行時間/質量分析計(TOF/MS)などの地上に設置する機器や、人工衛星のデータが使用される。また、飛行機、ヘリコプター、気球、船舶を利用した観測、2,000m以上の高地(自由大気と呼ばれる大気の層で地面との摩擦が無いため、大気が他とは異なった流れになっている)での観測、黄砂粒子のサンプルを採取した分析などが行われている<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>
[編集] 過去100年間~50年間の変動
近年は黄砂の発生が増加傾向にあるとの報道が多い。地球温暖化や砂漠化の進行を考える上で、黄砂の発生頻度の変化は重要な視点の1つとされているが、正確にその変化を捉えるためには長期的なデータが必要となる。韓国では、過去約100年間のデータから、1930年代後半から1940年代前半にかけて、黄砂の発生頻度が1990年代後半以降と同程度かそれ以上であったこと、1940年代後半から1950年代頃までは減少傾向で、それ以降増加傾向であり、晩秋から早春にかけての発生頻度が増えていることなどが分かった<ref>最近100年間の韓国における黄砂観測日数 全映信 金相源 趙慶美 金正淑, 2002, 地球環境, 7, 225-231</ref>。タクラマカン砂漠以西を除く発生地では、強風の発生頻度の増加および積雪面積の減少に伴って黄砂の発生頻度が増えていると言う研究結果<ref>東アジアにおける近年のダスト多発現象とその原因 黒崎泰典 三上正男, 2002, 地球環境, 7, 233-242</ref>や、中国北西部では、1960年代から40年間は減少傾向で、特に1980年代から1990年代には大きく減少しているが、1970年代前後は各地で変化にばらつきがあると言う研究結果<ref>東アジアにおけるダストストーム・黄砂発生回数の変動に関する総観気候学的研究 吉野正敏 鈴木潤 清水剛 山本享, 2002, 地球環境, 7, 243-245</ref>、中国華北地方では1990年代までは減少の一途をたどっていた<ref>黄砂現象、中国北部では減少傾向に 国家気象センター 人民網日本語版 2004年8月11日 、チャイナネット</ref>ものの、2000年代に入って増加しているとの研究結果や、発生頻度の変化とは別に、激しい砂塵嵐や濃度の高い黄砂の増加が見られるとの研究などがある。
総じて、日本、韓国では過去50年ほどの間、中国では2000年代に入って増加傾向にあるといえる。ただし、年ごとに発生の頻度や強さ、発生パターンなどは変動している。近年の増加や被害増加の原因としては、中国での過剰な放牧や耕地拡大などがその増加の原因の一つとの説がある上、今現在中国国土の18パーセントが砂漠と化しており、環境問題としてとらえられる場合もある。中国政府や地方政府が土地の乾燥化に拍車をかけるような政策をとるなどして、乾燥地域の拡大につながっているとの指摘もある。また、工業排水や廃棄物によって土壌が汚染され、植物が枯れて乾燥化を進めている例もある。カザフスタンでは、農業政策の失敗により地下水や湖水をくみ上げすぎるなどして、土地の乾燥化が進んだ。また、内モンゴル自治区などでは、過放牧や工業汚染によって乾燥化が進み、黄砂の新たな発生地になりつつあるといわれている。
また、地球温暖化により、内陸部の降水量減少や気圧配置の変化が引き起こされ、それらが乾燥化や強風の増加をもたらし、黄砂の増加に関係しているとの考えもある。また、エルニーニョ現象と黄砂発生頻度の関連性も指摘されている。
ただし、黄砂や黄砂被害の増加は、認識の問題だという声もある。生活スタイルや生活環境の変化により、黄砂による影響を受けやすくなったり、影響が目立ってしまうようになったのではないか、という指摘もある。また、黄砂とは別の問題である大気汚染などが、黄砂の悪影響を増大させている側面もある。
[編集] 類似の現象
類似の現象としては、アフリカ・サハラ砂漠からの乾燥した高温風(リビア名ギブリ、イタリア名シロッコ)、ギニア湾岸からベルデ岬付近の地域で吹く乾燥した冷涼風ハルマッタン、スーダンの砂嵐ハブーブ、エジプトの乾燥した高温風ハムシンなどがあり、砂嵐を伴うことが多く、黄砂によく似ている<ref>風・嵐 字典 あいねっと作詞教室 言葉の抽斗、2007年5月20日閲覧。</ref>。ただし、これらは黄砂とは異なり、風や砂嵐の名称である。
また、黄砂のような砂塵の大規模な発生地帯には、中央アジア(黄砂など)、アフリカ(ギブリ・シロッコなど)のほかに、北アメリカ、オーストラリアなどがある<ref>黄砂現象に関する最近の動き-自然現象か人為的影響か古くて新しい問題の解決に向けて- 山本桂香 科学技術動向研究センター、2006年7月。</ref>。
[編集] 黄砂の成分・形状
黄砂の粒の大きさは0.5µm(マイクロメートル)~5µm(=0.0005mm~0.005mm)くらいで、タバコの煙の粒子の直径 (0.2~0.5µm) よりやや大きく、人間の赤血球の直径 (6~8µm) よりやや小さいくらい。中国で観測されるものは粒の大きいものが多く、日本で観測されるものは粒の小さいものが多い。1934年に中国から日本にかけて行われた調査では、粒の大きさは0.001mm~0.5mmのものが多かったという<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
黄砂の色は、黄土色、黄褐色、赤褐色などに近い。
組成を見ると、石英、長石、雲母、緑泥石、カオリナイト、方解石、石膏、硫酸アンモニウムなどからなる。砂漠に多く黄土には無い石膏が含まれていることから、黄砂は砂漠由来であるとする見方があるが、石灰岩などの主成分である炭酸カルシウムが硫酸アンモニウムと反応して石膏となることが知られており、必ずしも砂漠由来であるとは限らないとする見方もある<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
粒子の種類によって度合いは異なるものの、黄砂は空気中のさまざまな粒子を吸着するため、その成分は発生する地域と通過する地域により異なると考えられている。工業地域を通過した黄砂は一酸化炭素を含んでいたという調査結果もある。
2001年に中国で行われた黄砂の成分分析では、シリコンが24~32%、アルミニウムが5.9~7.4%、カルシウムが6.2~12%であったほか、微量の鉄などが検出された。
鳥取県衛生環境研究所の調査では、2005年4月に黄砂を含む大気中の成分を調べたところ、平均値に比べてヒ素が22倍、マンガンが13倍、クロムが7倍、ニッケルが3倍という高い数値を記録しており、黄砂の飛来時には大気の成分が通常とは異なることを示唆している。
韓国では、黄砂の中から硫酸塩などの化学物質や、病原菌なども検出されている。また、同じく韓国での2003年の調査では、黄砂の前後における尿の成分測定で、発ガン性物質が増加したと発表された。
肺に入ると炎症を起こすシリカや、カビの菌糸体を構成するβグルカンなども含まれている<ref name="b">黄砂アレルギーについて ハッピー夫婦ドットコム、2007年4月5日閲覧。</ref>。
大気中を進むうちに紫外線などを受けるため、病原菌の一部は死滅すると考えられているが、化学物質が紫外線により分解されて有害なものになることが懸念されている。
[編集] 黄砂による影響
以下に挙げるように、さまざまな被害が確認されている。確認されている被害範囲は、モンゴル、中国、韓国、日本と東アジアの広範囲に及ぶ。モンゴル、中国、韓国では、黄砂による被害は大きな社会問題となっている。日本では、これらの諸国に比べて被害は軽く、環境問題として取り上げられることが多い。
[編集] 物理的・経済的被害
黄砂が降り注ぎ積もることにより、車や建物の窓、洗濯物が汚れたり、農作物の生育不良を起こしたりといった、物理的被害が最も多い。ビニールハウスや建物の天窓に積もると、遮光障害を起こすことがある。濃度が高い場合、視界が悪くなるために航空機の飛行や車の通行、鉄道の運行、人の歩行に障害を及ぼしたり、大気を覆うことによって気象観測を妨害したりする。また、地上波放送などの電波が乱反射し、受信障害や異常伝播を引き起こすこともある。
精密機械や半導体の工場では、塵の侵入により不良品ができるなどの被害も発生する。速度規制や交通の混乱、健康被害などの諸被害によるものや、砂や塵の処理にかかる費用も含め、大きな経済的損失も生じる。
発生地付近での砂嵐の場合には、砂も多く強風を伴うため、建物の倒壊・埋没、電柱の倒壊による停電なども起こる。特に発生地に近い地域では、砂嵐によって住居が砂に埋まったり道路が通行不能になるなどして、住むことができなくなった村もあり、被害ははるかに深刻である。ただし、発生地からある程度離れた地域では、住居が砂に埋まるような大粒の砂が降ることは無い。
[編集] 健康被害
細かい砂の粒子や、粒子に付着した物質、黄砂とともに飛来する化学物質などにより、さまざまな健康被害が生じる。咳、痰、喘鳴、ただれ、鼻水、痒みといった呼吸器官への被害や、目や耳への被害が目立つ。黄砂が多い日には、花粉症、喘息、アトピーなどのアレルギー疾患の悪化が見られる。また、間接的に循環器疾患や内臓疾患の増加に関与しているとの報告もある。同じ汚染度でも、お年寄りや子供、持病を持つ人のほうが影響を受けやすいとされている。また、それ自体は有害ではない黄砂が何らかの影響を及ぼし、汚染物質が人体に及ぼす悪影響を増幅させている可能性も指摘されている<ref name="b">黄砂アレルギーについて ハッピー夫婦ドットコム、2007年4月5日閲覧。</ref>。
[編集] 自然環境
森林などの植物に積もることによって生育不良を起こし、草食動物のえさが減るなどして生態系全体に影響が広がり、自然環境に異変をもたらすことがある。砂や砂に付着した物質によって、土壌や海洋へミネラルが供給され、植物や植物プランクトンの生育を促進する効果もあるが、効果が現れるまでには時間がかかる。黄砂に含まれる炭酸カルシウムは、酸性雨を中和したりアルカリ性化したりするため、酸性雨の被害軽減にも寄与している。しかし、黄砂に大気汚染物質が吸着されて、さまざまな物質が黄砂とともに運ばれる。このうち有毒な物質による、人間を含む生物への被害、環境汚染が問題とされている。
黄砂が気候にもたらす影響をみると、大気中にとどまり太陽放射を遮蔽することによる寒冷化と、氷雪や氷河上に落下し太陽光線を吸収することによる温暖化という、2種類の作用があるが、砂粒の大きさ、高度(上下方向の分布)、散乱率、吸収率などによって複雑に変化するため、結果的にどう作用するかは現在はっきりと分かっていない。
[編集] 黄砂への対策
黄砂による被害への対策は各地で行われている。各地で気象観測の一環として黄砂が観測されているが、観測点に偏りがあることに加え、気象観測だけでは黄砂現象の解明には不十分なため、より精密で計画的な観測が必要となる。これまでは、個人や小規模なグループによる研究が行われてきた。しかし、1990年代に黄砂現象の実態が詳しく分かるようになったことで、黄砂の実態把握には、数十年という長期間の監視体制を整える必要があることが次第に明らかになってきた。
現在、行政機関や研究機関による大規模なプロジェクトとして、気象研究所などの研究をもとにした気象庁の黄砂予測、韓国気象庁の黄砂予報と注意情報(3段階)、中国科学院の砂塵天気予報(開発中)、UNEP・UNESCAP・UNCCD・ADB・中国・韓国・モンゴル・日本によるADB/GEF黄砂対策プロジェクトが作成する黄砂対策プラン(リンク参照)、環境省による黄砂実態解明調査(リンク参照)などがある。日中韓3カ国環境大臣会合による合意形成、日中韓局長級会合による黄砂対策協議<ref>日中韓三カ国黄砂局長会合の結果について 環境省 報道発表資料、2007年3月14日。</ref>などもある。また、国立環境研究所、通信総合研究所、名古屋大学、九州大学、東京大学、岡山大学、農業環境技術研究所、理化学研究所、光州科学技術院、韓国原子力研究所、ソウル大学、漢陽大学、慶熙大学、中国国家環境保護総局、中国国家林業局、モンゴル国家気象局などが研究や観測に関わっている。2国以上の間で、観測機器や資金の援助、植林や農業指導などの協力も行われている。植林や農業指導については、NGOなどの民間団体が関わったプロジェクトもある。
黄砂発生地の砂漠化を防ぐ策としては、砂漠緑化と農法の改良が中心となる。具体的には、適切な植林、効率の良い薪などの燃料の確保、家畜の管理、土壌浸食の防止、灌漑、水資源の有効利用、エネルギーの再利用、適切な土地利用や農法への転換、砂の移動防止などがあり、技術開発を進め、専門化が指導を行って、砂漠化防止活動を長期間持続できるようにする必要がある<ref>砂漠化防止技術と研究 井上光弘 鳥取大学乾燥地研究センター 緑化保全部門・土地保全分野、2007年5月13日閲覧。</ref>。
中国政府は、「防砂治砂法」の制定(2001年、リンク参照)により法的に被害防止を行うとともに、自然保護区を設定して植林を行っているほか、防護林や草方格を用いて砂の移動を防ぐなどしている。また1990年代から、乾燥地域の拡大を抑えるために、内モンゴル自治区での遊牧民の定住化を進めている。また、モンゴルでも植林などが行われている。しかし、乾燥・砂漠化の進行にはまだ追いついていないという問題や、定住生活や適切な農業法に関する指導が行き届いておらず、対策として不十分であるという問題もある。また、過度な植林によって土壌の水分が著しく失われ、乾燥化を悪化させる可能性も心配されている。
対策が遅れている原因として、各国で黄砂の定義や分類(下の項参照)、概念や黄砂の認識が異なることが指摘されている。例えば、黄砂による被害は、モンゴルでは砂による害、中国では砂嵐による害、韓国では気象現象、日本では大気汚染と、かなり異なった概念であると考えられている<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
今後の課題としては、地表の水分量や植生の状態、作物の種類や分布、家畜の分布、地下水の取水状況などの継続した調査や、観測機器の整備、観測データの常時共有化、黄砂の定義や分類の統一、黄砂の予測技術の改良、対策の評価などが挙げられている<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
[編集] 各国の黄砂
[編集] 中国・モンゴル
中国では、気象観測において黄砂は「砂塵天気」に含まれ、視程(水平視程)10km以内で風が弱い場合「浮塵」、風が強く視程10km~1kmの場合「揚砂」、風が強く視程1km以下の場合「沙塵暴」とされている。沙塵暴はさらに3級(弱)、2級(中)、1級(強)、0級(特強)に分類される。特に、瞬間風速25m/s以上で視程が50m以下の場合、「黒風」や「黒風暴」(カラブラン, Kara Bran)と呼ばれている<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。東部でよく観測され、都市部では、最近の経済発展による大気汚染との相乗効果で、視程がかなり悪くなることがある。北京や天津などは発生地とされる砂漠に近く、近年はたびたび大規模な黄砂に襲われている。北京では、間近に迫った北京オリンピック開催に向けて、黄砂の影響が少ない大会開催を念頭に置いた研究や対策が行われている。
発生地から比較的離れた地域でも、黄砂による被害を度々受けている。2007年4月2日には、上海で623µg/m3(マイクログラム毎立方メートル)と過去最大の量の黄砂を観測し、大気汚染指数が500と過去最悪の数値を観測した<ref>Northern dust brings dirty skies in Shanghai、CCTV英語版。</ref>。大気汚染指数は0~500の数値で表され、300以上が「重度」とされており、今回は最悪の数値を記録した<ref>大気汚染でブーメラン現象…黄砂が上海を襲撃 2007年4月15日、iza。</ref>。華北や東北地方では日常的に指数が100前後と高く、これまでに500を記録したことはあったが、上海で「重度」となったのは初めてのことだった<ref>Urban Air Quality in China、2001年4月24日、Oliver Wild。</ref>。南方の台湾でも最高500µg/m3程度の黄砂が春を中心に観測される。
ただ、発生地周辺の中国内陸部やモンゴルでは、黄砂の降下よりも砂嵐や塵旋風による被害のほうが重い。農作物に砂が積もることによる不作のほか、住居に砂が侵入したり、砂嵐に巻き込まれて窒息するなどして死者が出ることもある。また、砂嵐を起こす風によっても、家畜や農作物、住宅や交通などに被害が出る。
これまでで最も大きな被害は、1993年5月5日に中国北西部(寧夏回族自治区、内モンゴルアラシャン盟、甘粛省)で発生した沙塵暴で、死者・行方不明者112人、負傷者386人、家畜・牛馬の死亡・行方不明約48万3千頭、4,600本の電柱が倒壊、被害を受けた耕地21万ha、森林被害18万ha、経済損失66億円のほか、多くの道路や鉄道が埋没するという大きな被害を出した<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。この時、甘粛省で22.9mg/m3(22900μg/m3)という黄砂の濃度を記録している<ref>黄砂・砂塵暴の発生、輸送、沈着及び対策に係る研究 日中友好環境保全センター、2003年4月1日。</ref>。
中国の森林管理局によれば、黄砂の影響を受けている中国人は約4億人で、直接的な被害だけでも540億元(約840億円)に及ぶと言う<ref>Operation blitzkrieg against desert storm 2007年4月3日、Wang Ying、China Daily。</ref>。
[編集] 韓国
韓国では、黄砂はその程度により、強度0、強度1、強度2の3段階に分類されている<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。2002年4月には、史上最大の2070µg/m3の黄砂が降り注いだ。(ソウルにおける黄砂注意報発令基準は400µg/m3、黄砂警報は800µg/m3以上の状態がいずれも2時間以上続くと予想される場合に発令される。<ref>2007年2月10日より変更すると韓国・気象庁から発表されている。「気象庁、黄砂特報・判定基準を強化」(韓国新聞)</ref>)「1~2キロほどしか見通しもきかず、呼吸ですら困難なほどであった」と地元新聞は伝えている。2006年4月には2015µg/m3が観測され、空の便も韓国国内便6便が欠航している。
[編集] 日本
日本では、気象庁により、黄砂とは大陸性の土壌粒子によって視程が10km以下になる現象と定義されている。夏以外に観測されるが、特に春先(3月から5月)によく観測される。西日本や日本海側で観測されることが多い。山脈を隔てて東側となる東日本や太平洋側、内陸部では観測数は少ないが、時々観測される。日本では、2000年から2002年の黄砂観測日数が50日前後となり、20日程度だった平年値を大幅に上回った。日本で観測される黄砂は大気がかすみ、微量の砂が積もる程度で、大きな被害はほとんど報告されないが、健康被害は数多く報告されている。気象観測における天気としては煙霧またはちり煙霧に分類される。
[編集] その他
遠くで観測された例では、アメリカ合衆国のハワイ州やカリフォルニア州などがある<ref>黄砂ってなんですか? 国立環境研究所 NIES</ref>。黄砂の成分が、ハワイの森林や海洋のプランクトンの生育に関わっているのと研究結果もある<ref>黄砂 林野庁海外協力室、2007年1月。</ref>。2001年4月上旬に発生した黄砂は、同月15日にソルトレークシティ、18日にはカナダからアリゾナ州にかけてのロッキー山脈、19日には五大湖付近でそれぞれ観測され、20日にはカナダ沖大西洋上空に達した<ref>中国の将来を脅かす黄砂 地球政策研究所所長 レスター・R・ブラウン (ワールドウォッチニュースより)</ref><ref>気象衛星ひまわりとノアによる2001年黄砂の解析 増水紀勝 福田貴広 林省吾 岩崎亮治 小山田恵 木下紀正 矢野利明 飯野直子、2007年5月12日閲覧。</ref>。また、グリーンランド<ref name="d">異常気象レポート2005 黄砂とは 気象庁</ref>やアルプス山脈でも黄砂由来のものと見られる砂が観測されたとの報告もある。
地上からの観測による情報は無いが、衛星画像による観測の解析から、北朝鮮やロシアの沿海州・樺太なども黄砂の通過ルートとなっている<ref name="c">黄砂の移流・拡散 Q&A 黄砂解析鹿児島グループ</ref>と考えられている。
[編集] 黄砂の歴史
中国では、BC1150年頃に「塵雨」と呼ばれていたことがわかっている。史料においてはこのほか、「雨土」「雨砂」「土霾」「黄霧」などの呼称があった。また、BC300年以後の黄砂の記録が残された書物もある<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
朝鮮では、三国史記に、新羅時代の174年頃の記述として、「ウートゥ(雨土)」という表現が残っている。怒った神が雨や雪の代わりに降らせたものと信じられていた。644年頃には黄砂が混ざったと見られる赤い雪が降ったという記録も残っている<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
日本では江戸時代頃から、書物に「泥雨」「紅雪」「黄雪」などの黄砂に関する記述が見られるようになった<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
古くは、日本では少なくとも7万年前以降の最終氷期には黄砂が飛来していたと考えられている。このころ(7万年前~6万年前)の黄砂の堆積量は、1万年前以降の完新世の3~4倍と、かなり多かったと推定されている。このほか、1万8千年前にも黄砂の堆積量が増えている。また、現在黄砂の発生源となっている黄土高原は、250万年前から始まり200万年前から増えた、風送ダスト(風によって運ばれる砂、塵など)によってできたと考えられている。これら黄砂や風送ダストの量の変化は、気候変動や地殻変動によって、風や降水、地形などのパターンが変わったことによるものと考えられている<ref name=a>黄砂問題検討会中間報告書 環境省・海外環境協力センター、2004年9月3日。</ref>。
[編集] 出典・参考リンク
[編集] 参考文献
- 岩坂泰信 『黄砂 - その謎を追う』 紀伊國屋書店、2006年、ISBN 4314010029。
- 三上正男 『ここまでわかった「黄砂」の正体 - ミクロのダストから地球が見える』 五月書房、2007年、ISBN 4772704604。
[編集] 脚注
<references/>
[編集] ウェブ
- 異常気象レポート2005 黄砂 気象庁
- asiandust lakepowell.net
- 黄砂ってなんですか? 国立環境研究所
- 黄砂・大気汚染・アレルギー・病気 岡田上鍼灸院
- 黄砂情報 気象庁
- 東アジア域の黄砂・大気汚染物質分布予測 九州大学/国立環境研究所
- 中国環境問題の現状
- Regional Master Plan For The Prevention And Control Of Dust And Sandstorms In Northeast Asia(ADB-GEF黄砂対策プロジェクト報告書) アジア開発銀行
- 黄砂(Dust and sandstorm:DSS) 環境省
- 中華人民共和国 防砂治砂法 日中友好環境保全センター
- 黄砂現象に関する最近の動き-自然現象か人為的影響か古くて新しい問題の解決に向けて- 山本桂香 科学技術動向研究センター
- 地球環境 Vol.7 No.2 国際環境研究協会
[編集] 関連項目

