量
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量(りょう)とは、大きさの程度を持ち、それを計測したり大小を比較したりできるもののことである。
「定量的・定性的」という言葉もあるように、量と性質は相反する概念としてとらえられることが多い。しかし、性質というものも、複数の「量」を組み合わせて総合的に判断したものと見ることもできる。
量は以下の各項目に示すように様々の観点から分類することができる。
目次 |
[編集] 量と数
量は数(すう)と単位(または単位に準ずるもの)の積の形式で表せる。対応する数の種類で量を分類することもできる。多くの量は実数に対応するが、貨幣や個数のように分割できない最小量が存在する量は自然数に対応し、離散量または分離量と呼ばれる。離散量と連続量はデシタル量とアナログ量とも呼ばれる。離散量の反対語として連続量という言葉も使われ、これは実数に対応する。
力や速度のようにベクトルに対応するベクトル量、固体の応力のようにテンソルに対応するテンソル量、量子力学での波動関数のように複素数に対応する複素数量も存在する。複数の数の組で表されるベクトル量に対して、ただ一つの数で表される量をスカラー量と呼ぶ。なおほとんどの文書では特に断らない限りは量は実数値(自然数値のみのときも含む)を取るスカラー量である。本項目の以下の記載でも単に量と言えばスカラー量とする。
離散量または分離量と似た言葉で可算量という言葉も、まれに同義語として使われる例もあるが、完全な同義語とは言えないので誤用と言ってもよいだろう。可算集合とは自然数と1対1に対応する集合のことであり、有理数は可算集合ではあるが稠密集合なので、有理数で表した量が離散量とは言えない。有理数のみに対応する量の例はほとんどないが、多くの場合に量は有限桁数の小数すなわち有理数の一部で表されている。しかしこれは通常は、実数値である真の値の近似値と見なされる。
単位によりその量の具体的種類が示される。物品、人員、服、紙、本などの可算量を数える助数詞の「個」「人(にん)」「着(ちゃく)」「枚」「冊」などは単位ではなくて単位に準ずるものと見なされる<ref name="単位の辞典-丸善">二村隆夫「丸善 単位の辞典」丸善(2002/03)</ref>。しかし量同士の演算においては、これらも可算量の単位と見なして扱うのが便利である。
[編集] 尺度
統計学ではデータを示す変数を、名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比率尺度(比例尺度)、の4つの尺度水準として分類している。この中で厳密な意味で量と呼べるのは、間隔尺度と比率尺度である。
[編集] 物理量とそれ以外
[編集] 物理量
物理量とは物理的実体について客観的に測定可能であり測定器等による測定方法が定められた量である。物理量を表す単位を物理単位という。ただし物理量という言葉は自然科学分野の文書中でさえ特に明確な定義なしで使われることが多く、それが指す範囲には曖昧さがあり、著者と文脈により異なることがある。つまり、ある特定の量が物理量であるか否かという判断が著者と文脈により異なったり判断できなかったりする。
上記の定義にしてもそうであり、この定義では測定器等としてどのような範囲のものを想定するかによる任意性があるが、極めて狭義に解釈すれば、国際単位系における7種の基本量(長さ、質量、時間、電流、熱力学的温度、物質量、光度)およびそれから誘導される量のみを指すと言える。広義に解釈すれば例えば、分子数、微粒子数、細胞数、生物個体数、恒星数、他様々な物体の個数も測定方法が確かな物理量である。また個数の測定にもパーティクルカウンターやセルソーター等の測定器を使うことも多い。また、固体の硬度、引火点、ガラス転移点など正確な値を定義しにくい量でも広義には物理量と見なすことができる。
物理量のJIS-Z8103での定義は「物理学における一定の体系の下で次元が確定し、定められ単位の倍数として表すことができる量」である<ref name="JIS工業用語大辞典">「JIS工業用語大辞典」日本規格協会;第5版版(2001/03)</ref>。"一定の体系の下で"とは実際上は国際単位系の下でということであり、"次元が確定し"とは基本量およびその組立量であると解釈できる。これは複数の物理的条件により変動するため測定条件を約束事として定義する工業量との区別を意識した定義であろう。また"定められ単位の倍数として表すことができる"ということは比例尺度または間隔尺度だと言うことであり、例えば順序尺度でしかないモース硬度はJIS-Z8103の定義では物理量とは言えない。
また"丸善-単位の辞典"での定義では「物理現象や物質の、一つの測定できる属性」であり<ref name="単位の辞典-丸善">二村隆夫「丸善 単位の辞典」丸善(2002/03)</ref>、心理量の定義の「心理的要素によって評価される量」<ref name="単位の辞典-丸善">二村隆夫「丸善 単位の辞典」丸善(2002/03)</ref>と比較すれば、測定者によらない物理現象や物質固有の属性であるという点に特徴を見た定義だと言える。それに対して心理量は、測定対象の物理現象や物質が同じでも測定者が異なれば異なりうる量である。
逆に物理量ではない量としては、以下に述べる感覚量、感性量、通貨量などを挙げることができる。
[編集] 工業量
工業量(Industrial Quantities /Engineering Quantities)はJIS規格で定義されている量の分類であり、工業分野で使われる多くの量が含まれる。工業量を計ることを工業計測と呼び、物理量を計ることを物理測定と呼んで区別することも多い。JIS-Z8103の定義では「複数の物理的性質に関係する量で、測定方法によって定義されている工業的に有用な量」であり硬さや表面粗さが含まれる<ref name="JIS工業用語大辞典">「JIS工業用語大辞典」日本規格協会;第5版版(2001/03)</ref>。例えばロックウェル硬度の測定では、プローブである圧子の形状(長さおよび角度の次元の複数の量)、加える力(質量×長さ/時間の二乗)などを規定し試料の変形量(長さ次元の複数の量)を測定する。つまり複数の物理量を測定した上で計算されるのが硬さという工業量なのである。
工業量の中には以下の項目に挙げる心理物理量(Psychophysical Quantities)に属するものもある。
[編集] 感覚量
感覚量は心理量とも呼ばれ人間が主観的に感じる感覚の強さである。これは個人差や同一人でも環境や体調による差はあるが、感覚を生ずる物理化学的刺激の強さとほぼ相関していると考えられる。そこで物理量としての刺激の強さを感覚量の強さで評価した心理物理量と呼ばれる量を、刺激を表す物理量と1対1に対応する量として定義している。心理物理量には次の例がある。
皮膚による感覚である痛覚と温感も量的判断の下せる心理量と言えるが、これらに対応する心理物理量として定まった定義のものはまだない。皮膚感覚の触覚は量的に表現されることは希であり、感覚ではあっても感覚量とは言えないであろう。
[編集] 感性量
感性量は感覚量よりもさらに内面的に人の心が評価するような量のことである。しかし感性量と感覚量の境界は必ずしも明確ではない。心理量という言葉は感覚量のみならず感性量をも含んで使われることも多い。感覚量は人が感覚器官で感じたままの量であり、生理的には感覚神経の発火信号の量に相関すると考えられるが、感性量はさらに内面的にもしくは総合的に評価される量と言える。
様々な物理化学的刺激の強さとそれに対して生じる感性の相関を測定評価する試みは盛んに行われており、その結果を製品の質の向上や人間生活の向上に役立てようとする試みは感性工学と呼ばれている。日本では1998年(平成10年)10月に日本感性工学会が発足して研究が続けられている(外部リンク参照)。
感性量には次のような例が挙げられる。「食感」「手触り」「風合い(ふうあい)」「快適さ」「不快指数」「爽快感」。
[編集] 生理学的量
物理化学的刺激に対して生物は様々な生理的反応を示し、その反応の量は与えられた刺激の量に相関する。この反応の量は感覚量と性質が近く、通常は物理量とは呼ばない。ただし人間以外の生物では生理的反応量も物理化学的測定手段でしか測定することはできず、心理物理量に対応するような量として表現するしか方法がない。
例としては、「毒性」「半数致死量」「発ガン性」「皮膚刺激性」「線量」などがある。
[編集] その他の非物理量
- 通貨量 様々の通貨単位により計られる「通貨量」「金額」や、その誘導量である「価格」「所得」「金利」「国民総生産」などには物理的実体はなく、物理量ではないと言える。ただし「コインの数」「紙幣の枚数」などは物理量であるとも言える。
- 得点 試験の点数やゲームの得点などは人為的に定められた量で物理的実体はなく、物理量ではないと言える。
[編集] ポテンシャル量
例えば山の標高、飛行軌道の高度、重力ポテンシャル、クーロンポテンシャル(電位)、温度のような量は、質量、体積、長さのような量と比べて次のような特徴があり、量というものはこれらの特徴を持つ量と持たない量との二種類に分けることができる。この二種類はそれぞれ、統計学での尺度水準でいう間隔尺度と比例尺度にほぼ一致する。
- 差を取ると○○差または○○間隔と呼ばれる別種の量になる。質量や体積では差は同種の量である。
- 単位の他にゼロ基準を定めないと、その値が定まらない。質量や体積ではゼロ値は自然に定まっている。
- マイナス無限大からプラス無限大までの値を取り得ると見なせる。ただし、後に絶対的ゼロ基準が判明した温度のような例外もある。
- ある空間内の位置または座標に強く結びついている。ここでの空間は物理的空間だけでなく状態空間や時空間も含めてよい。
例えば、標高や高度ではゼロ基準を海面と定めて海抜○mとすることが多い。点電荷のクーロンポテンシャルでは普通は無限遠の値をゼロ基準とする。摂氏温度は当初は氷点をゼロ基準としたが、現在では273.15Kの絶対温度をゼロ基準として定義されている。
そもそも空間の座標、例えば1次元空間での例として東海道線の駅の位置を東京駅からの線路に沿った距離で表した座標などは、ここでいう間隔尺度的な量であり長さの次元を持つ。座標間の差である位置間隔は長さそのものである。また時間軸に沿って言えば、時刻や日付は間隔尺度的な量であり、時間間隔は比例尺度的な量である。
[編集] 外延量と内包量
銀林と遠山らにより考案され日本の小学校算数教育で広く使われている分類概念である<ref name="遠山啓">遠山啓(Toyama, Hiraku)「遠山啓著作集数学教育論シリーズ(6)量とはなにか」太郎次郎社(1981/07)</ref><ref name="銀林浩">銀林浩「量の世界-構造主義的分析-」むぎ書房(1986)</ref><ref name="単位171の新知識">星田直彦「単位171の新知識」講談社ブルーバックス(2005)ISBN 4-06-257484-5</ref>。熱力学で使われる示量変数(extensive variable)および示強変数(intensive variable)と発想が似てはいるが別の概念であり、自然科学一般分野や社会科学一般分野、日本国外ではこの分類概念はほとんど使われていない(外部リンクの英語版wikipedia「量」の項参照)。英語へは、外延量はextensive quantity、内包量はintensive quantityと訳されるが、この言葉は英語では熱力学で使われる示量変数および示強変数と同義語である(外部リンクの英語版wikipedia「物理量」の項参照)。
銀林らの分類では、量はまず分離量と連続量に分けられる。連続量は外延量と内包量に分けられる。内包量は度と率に分けられる。ただし分離量を外延量とみなす立場もあるらしい。
外延量は加法性が成り立つ量であり、長さ、質量、時間、面積、体積などである。内包量は加法性が成り立たない量であり、温度、速度、密度、濃度、利率などである。内包量はまた、他の量の乗除によって生み出されたものであり、異なる単位の量同士の乗除によるものが度であり、同じ単位の量同士の乗除によるものが率である。例えば、速度、密度、温度は度であり、濃度、利率は率である。
[編集] 示量変数と示強変数
熱力学で使われる状態量の分類である。示量変数(extensive variable)は系の体積または質量に比例する状態変数であり、体積、質量、物質量、内部エネルギー、エントロピーなどである。示強変数(intensive variable)は系の体積または質量に依存しない状態変数であり、温度、圧力、化学ポテンシャル、電界、磁界などである<ref name="理化学辞典">長倉三郎、他(編)「岩波理化学辞典-第5版」岩波書店 (1998/02)</ref>。
[編集] 量の演算と次元
[編集] 量の次元とは
一般に同じ種類の量同士の間では和と差の演算が定義でき、結果は同じ種類の量になる。異なる種類の量同士の和や差には意味がない。同じ種類の量同士でも異なる種類の量同士でも積や商が定義できることがあり、その結果は演算した量のどちらとも異なる種類の量になる。例えば長さ同士の積は面積であり、長さの時間による商は速さである。このように異なる種類の量同士の間に特定の関係式が成り立つことがあるが、そのような関係式の解析は次元という概念を使うと簡単になることがある。
量の次元とは、相異なる量の間の関係式から具体的数値を無視して量の種類とそのべき乗だけに着目した概念である。具体的には定数係数を無視した等式として、次元の関係式を表す。すなわち、量 q の次元を[ q ]と表せば、以下のようないくつかの次元の関係式が例示できる。
- [面積]=[長さ]2
- [体積]=[長さ]3
- [速さ]=[長さ][時間]-1
- [加速度]=[長さ][時間]-2
- [力]=[質量][長さ][時間]-2
- [仕事]=[質量][長さ]2[時間]-2
具体的数値を考慮すれば、例えば立方体の体積Vと一辺の長さaとの関係は、それぞれの単位をuV,uLとして、
- V/uV=(const)(a/uL)3
となり定数constは体積と長さの単位の採り方で変わる。例えば体積の単位としてl(リットル)を採れば、
- 1l=1000cm3=0.001m3=61.02inch3
なので、
- V/l=(1/1000)a3/cm3=1000a3/m3=(1/61.02)a3/inch3
である。しかし指数3は常に変わらず上記の次元の関係式は単位の採り方によらない。さらにVを直方体や三角錐の体積とすれば、
- V/m3=abc/m3
- V/m3=(1/6)ah1h2/m3
などとなるが、やはり次元の関係式は同じである。つまり次元の概念を使えば具体的数値計算を行うことなく、また単位を考慮することもなく、相異なる量の間の関係が理解できるのである。具体的効用には次のようなものがあるが詳細は「次元解析」の項目に詳しい。
- 等式の両辺の次元が等しいか否かを確認することで、その等式の正しさのチェックができる。
- 見かけ上異なる量でも次元が等しければ本質的に同等か、強い関係があることが推定できる。
- ある未知の等式が特定のn種類の量(q1,q2,--qn)の全てを含む場合、次元のみの関係から等式の形が推定できる。(次元解析の項目に良い具体例がある。)
ここで次元が等しいというのは、既知の次元式を用いていくつかの量を他の量の組み合わせで置換して両辺に含まれる量の種類を同じにしたとき、各量の指数が一致するということである。例えば、
- [力積]=[力][時間]=[質量][長さ][時間]-1=[運動量]
となり、力積は運動量に対応することが次元解析のみから推定でき、実際に力積は運動量に変換される。ここで力積と運動量は次元は同じだが異なる種類の量であることには注目すべきである。一般に同じ種類の量ならば次元は等しいが、その逆は必ずしも成り立たない。他にも、仕事と力のモーメントはどちらも[力][長さ]の次元を持つが異なる種類の量であり、互いに物理的に変換するということもない。この場合どちらも力と長さの積ではあるのだが、仕事ではその長さは力に平行な方向の長さであり、力のモーメントでは力に垂直な方向の長さであるという違いがある。
[編集] 基本量と組立量
以上のような次元解析の操作は次のように基本量を定めると計算が簡単になり理解しやすくなる。
n種類の量の間にk個の互いに独立な関係式が成り立っていれば、(n-k)個の任意の量を基本量として定め、他の量は基本量の組み合わせで表すことができる。例えば前記の例示式では、質量、長さ、時間を基本量として、他の6種の量の次元を基本量の次元のみで表している。基本量の組み合わせで表すことができる量を組立量というが、基本量が定まれば組立量の次元は基本量のみの次元の積として一意的に表せる。次元を一意的に表せば、2つの量の次元が同じかどうかは人目でわかる。このような一意的表現のことも、その組立量の次元と呼ぶ。
[編集] 物理量以外での次元
自然界で測定可能な量、いわゆる広義の物理量では、量の間の関係式は自然法則と量の定義により決まるものなので、次元を使う考察は汎用性が高く有用である。しかし次元は物理量だけにしか使えない概念ではなく、定義がきちんと定まった量でありさえすれば社会的な量などにも通用する。例えば、
- 人件費=時給・マンナワー
という関係式の各量の次元は次のように考えられ、両辺の次元は等しいことがわかる。
- [金額]=([金額][人数]-1[時間]-1)([人数][時間])
社会学や経済学では既知の量の組み合わせ(積商などの演算)により様々な量が定義されているが、次元を考えればこれらの量の組み合わせ方が露わになり理解がしやすくなるのである。
[編集] 参考文献
<references />
- 小泉袈裟勝・山本弘 著 『単位のおはなし 改訂版』 日本規格協会、2002年、ISBN 4-542-90251-X。
[編集] 外部リンク

