覚醒剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。

覚醒剤(かくせいざい)とは、狭義には覚せい剤取締法で規制されている薬物。広義には中枢神経刺激薬である。中枢神経刺激薬は、脳神経系に作用して心身の働きを一時的に活性化する働きを持つ広義の向精神薬の一種であるため、嗜癖依存の対象になりやすい。

目次

[編集] 概要

覚せい剤取締法で規制されている薬物として、フェニルアミノプロパンアンフェタミン)、フェニルメチルアミノプロパンメタンフェタミン)、及びその塩類やそれらを含有するものがある(後述の法規制に詳しい)。これらは、一般に、数度の使用によって強い嗜好性が生じ、習慣性の依存状態となりやすい。日本では他の麻薬と区別され、所持、製造、摂取が厳しく規制されている。なお本項では、便宜的に同法で規制されているものを「覚せい剤」、広義の中枢神経刺激薬を「覚醒剤」と表記して区別する。

覚せい剤取締法で規制されていない中枢神経刺激薬としてはメチルフェニデートコカインMDMAなどがある。これらは麻薬及び向精神薬取締法により規制対象となっている。特にコカインとMDMAは麻薬として厳しく規制されている。メチルフェニデートは向精神薬に分類される。

カフェイン作用副作用も穏やかで普遍的に存在する事もあり、食品としての摂取や所持に関しては規制はされていない。しかし、カフェイン単体では低致死量であるなどの理由により、その抽出物は薬事法で劇薬に指定されている。またこれを調剤したものは医薬品に該当する。中毒性の存在も知られており、カフェインも含めて禁忌する人も見られる。

一般に「覚醒剤」といった場合メタンフェタミンを指すことが多く、俗にヒロポン(略して“ポン”とも)、スピード(speedから“エス”とも)、シャブ冷たいものなどとも呼ばれる。ヒロポンはメタンフェタミン塩酸塩の商品名のひとつで大日本住友製薬商標である。シャブという俗称の由来は、「アンプルの水溶液を振るとシャブシャブという音がしたから」という説や、英語のshave(削る、薄くそぐ)から来たと言われている。「骨までシャブる」から来たという説もある(自嘲的、もしくは密売者が使用者を蔑視してつけた表現と考えられる。また、火葬された遺骨の有様からとも。)。又、関西の末端の密売現場では「シナモン」(品物)とか「パケ」と呼ばれている。

[編集] 薬理作用

アンフェタミン、メタンフェタミン、コカイン、メチルフェニデートなどは、脳内報酬系としても知られる、腹側被蓋野から大脳皮質と辺縁系に投射するドパミン作動性神経のシナプス前終末からのドパミン放出を促進しながら再取り込みをブロックすることで、特に側座核内のA10神経付近にドパミンの過剰な充溢を起こし、覚醒作用やの気分を生じさせる。それに対してカフェインは脳幹への刺激効果が強いとされる。

MDMAはこれらの作用に加え、セロトニンの放出を起こす。

メチルフェニデートの塩酸塩である塩酸メチルフェニデート(商品名リタリン)は難治性うつ病注意欠陥多動性障害(ADHD)やナルコレプシーに対して処方される。特にADHD、ナルコレプシーに対して有効な薬剤である。しかしその反面、長期連用により依存を生じたり、不眠などの副作用を伴うこともあり、現在ではマスコミなどから安易な投与を危惧する声もあがっている。

カフェインは眠気覚ましとして広く利用されている。また、コカインは局所麻酔薬として使用されることもある。

MDMA,MDEA等は経口的に摂取される。

覚せい剤の主な摂取方法は以下のとおりである。

  • 注射器を使用する。経静脈的に摂取する方法が広く行われているが、臀部などへの皮下注射も行われる。
  • 結晶をアルミホイルなどに載せて下からライターなどで焙り、昇華したものを経鼻的に鼻粘膜から摂取。もしくは喫煙同様経口的に肺から摂取。(炙り) 
  • 粉末にしたものや水溶液を用いて直腸、膣などの粘膜から摂取する。
  • 飲み物などに混ぜて経口的に服用する。
  • 微粒状にした結晶を鼻から吸引し鼻粘膜から摂取する。(スニッフィング)

ほとんどの常用者において、摂取方法はほぼ固定されているのが普通である。注射で摂取する者はほぼ毎回注射するのであり、一方では、長年の使用者でも注射器は使用したことが無いという者も少なくない。

連用すると耐性を生じ、摂取量が漸増することもあるが、その逆に、生体が記憶するのか、少量で効果が得られるようになることもある(逆耐性)。覚せい剤の耐性は一定期間使用しないでいると解消する。長期連用者のなかには少量を摂取して楽しむ方法に落ち着くものもいる。

カフェインは比較的依存性が低いとされているが、長期連用することによりカフェイン禁断性頭痛などの離脱症状を起こすことが知られている。

[編集] 副作用

血圧上昇、散瞳など交感神経刺激症状が出現する。発汗が活発になり、喉が異常に渇く。内臓の働きは不活発になり多くは便秘状態となる。性的気分は容易に増幅されるが、反面、男性の場合は薬効が強く作用している間は勃起不全となる。常同行為が見られ、不自然な筋肉の緊張、キョロキョロと落ち着きの無い動作を示すことが多い。更に、主に過剰摂取によってであるが、死亡することもある。食欲は低下し、過覚醒により不眠となるが、これらは往々にして使用目的でもある。

中脳辺縁系のドパミン過活動は、統合失調症において推定されている幻聴の発生機序とほぼ同じであるため、覚醒剤使用により幻聴様の症状が生じることがある。ごくまれであるが、長期連用の結果、覚醒剤後遺症として統合失調症と区別がつかないような、慢性の幻覚妄想状態や、意欲低下や引きこもりといった、統合失調症の陰性症状の様な症状を呈し、精神科病院への入院が必要となる場合もある

また、まれに、覚醒剤の使用を中断しているにも関わらず使用しているときのような感覚が生じることがあり、フラッシュバックと呼ぶ。フラッシュバックは使用直後に生じる場合から、使用を中断して数年を経て経験する場合まである。

静脈内注射に伴う合併症として、注射針の共用によるC型肝炎HIVの感染、注射時の不潔な操作による皮膚・血管の感染・炎症、敗血症などがあげられる。

MDMAはメタンフェタミンなどとは異なる毒性を有している。急性中毒により悪性高熱症、興奮、錯乱などを呈することがある。また長期使用によりうつ病、長期記憶機能の障害、注意障害などを生じる。これは、脳内において気分の調節、記憶などに関与しているセロトニン系神経をMDMAが破壊するためであると考えられている。

[編集] 歴史

メタンフェタミンは、1893年に薬学者・長井長義三浦謹之助エフェドリンから合成したもので、シナプス小胞からドーパミン類を排出させることで、疲労をなくし活力が増大したように感じさせる一時的な見せ掛けの効果がある。1941年に大日本製薬(現在の大日本住友製薬)から「ヒロポン」として販売が開始されると、第二次世界大戦中に生産性を上げるべく、政府が軍需工場の作業員に配布したり、夜間の監視任務を負った戦闘員に使用させていた。夜間戦闘機の搭乗員に、「夜間視力向上用」として渡した場合もあった。いわゆる吶喊錠突撃錠猫目錠である。第二次世界大戦末期には、特攻隊向けにも使われ、ヒロポンにお茶の粉末を混ぜたものが出陣の前に「特攻錠」として支給された。戦後も、ある時期までは薬局で一般に販売されていたため、タクシーの運転手や夜間勤務の工場作業員など、長時間労働が要求される職種の人々に好んで利用されていた。その疲労回復力から大変重宝され、当時は『注射時代』というフレーズを掲げられた看板も出された程であった[出典?]。この結果、日本ではメタンフェタミンが社会に蔓延し多数の依存症患者を生み出す事となった。

戦時中は、日本のみならずアメリカイギリスドイツなどでも上記と同様の目的で利用されていたが、これらの国々で戦後に覚せい剤が蔓延したという記録は寡聞にして聞かない[出典?]。製薬会社と一部の研究者や官僚が結託し、非加熱血液製剤の販売を続けさせたことによりエイズが蔓延した事件が過去にあったが(薬害エイズ事件)、覚せい剤に関しても同様の構図が読み取れると指摘する者もいる。戦時中に大量生産し在庫の処分に困っていた製薬会社を助けるために危険性を承知しながら販売を黙認していたとの説である。ただし、戦後の混乱のために法規制が後手に回ってしまっただけであるとの考え方が一般的である。社会問題化するようになり、簡単に服用可能な錠剤から、比較的抵抗感のある注射するタイプのアンプルに切り替えられたが、皮下注射によりかえって効力を増強しただけであった。

禁止されるまでに発売されていた主な製品として、メタンフェタミン製剤である「ヒロポン」(大日本製薬・現在の大日本住友製薬)、アンフェタミン製剤「ゼドリン」(武田薬品工業)があった。ヒロポンは現在でも、法律で許可された特定の医療機関に対して販売されている。

覚せい剤蔓延が社会問題化し、1951年に覚せい剤取締法が制定されると覚せい剤の取引は地下に潜り、暴力団等の主要な資金源となっていった。

覚せい剤自体は非常に安価に製造できるが、取引が非合法化されているため闇ルートでの流通となり、末端価格(小売価格)は数百倍にも跳ね上がる。このため、密輸や密売があとを絶たない。近年では、北朝鮮からの密輸も相当量あるといわれ、同国の外貨獲得手段となっていると指摘されている。

また、中学生・高校生が栄養剤感覚や痩せ薬感覚で手を出し、騙されて服用するケースも増加し、社会問題になっている。2005年には元民主党所属で前衆議院議員の小林憲司が覚せい剤所持で逮捕され、衆議院議員在職中にも覚せい剤を使用していたことが判明し国民に大きな衝撃を与えた。

近年、デザイナーアンフェタミンなどと呼ばれるMDMA、MDEAなどが若年者を中心に新たな蔓延を起こしているが、これらの薬剤にも濫用により大きな副作用があり、しばしば死亡例もある。取り締まり強化とともに、副作用についての教育が重要視されている。

[編集] 法規制

覚せい剤取締法にいう覚せい剤(かくせいざい)とは、フェニルアミノプロパン(アンフェタミン)、フェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)及びその各塩類、これらの物と同種の覚せい作用を有する物であって政令で指定するもの並びにこれらの物のいずれかを含有する物をいう(同法2条1項各号)。

日本における薬物犯罪の相当部分がこの覚せい剤の濫用事犯であることなどに鑑み、覚せい剤取締法が麻薬及び向精神薬取締法とは別個の単行法として制定され、覚せい剤の濫用事犯を、麻薬及び向精神薬の濫用事犯よりも重い刑罰をもって規制している(麻薬及び向精神薬取締法66条1項、覚せい剤取締法41条の2参照 所持だけでも最高刑は懲役10年)。

よく刑事ドラマで、捜査員が結晶の入った小袋に穴を開けて内容物を少量指に取って舐め、「…覚せい剤だ!」と叫ぶシーンが時々あるが、覚醒剤ではなく毒物であったり、混ぜ物が多い粗悪品の場合、その不純物に毒性があれば危険である上、捜査員であっても摂取は違法であるため、このようなことはあり得ない。実際には判別用試薬と小型試験管やトレーなどがセットになった携帯用検査キット(職務質問等で、現行犯(現物所持)の検挙を容易にできるよう、近年では警察等の捜査車輌に常備されることが多い)を用いて、簡易鑑定を行なう。

売買や大量所持が目的でない、覚せい剤の所持もしくは使用で逮捕された初犯者は、大抵、懲役が1年6ヶ月から2年、執行猶予3年程度の判決を下される。再犯者には執行猶予がつかず実刑になることが多い。

アミノ酸のフェニルアラニンを出発物質として合成させることもでき、理論的には車のタイヤからでも合成できる。

[編集] 関連項目

ことばこって?

「ことばこ」は、歴史の人物から最先端テクノロジーまで、なんでも調べられるオンライン百科事典です。ウィキペディア財団が運営を行なっているwikipedia.orgから引用をしています。

おススメサイト
トラブログ
アレどう?
アフィリエイトB