裁判官
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裁判官(さいばんかん)は、司法権を行使して裁判を行う官職にある者。
各国の訴訟法制に応じて裁判官の職掌は定まり、陪審制を採用している国などでは、事実認定について裁判官が担当しないことがあることから、裁判官を法廷における審理を主宰する者として位置づけることがより妥当な場合もある。
目次 |
[編集] 歴史的概略
古来より、さまざまな犯罪や係争が存在し、ある程度の社会が作られて以降はその仲裁制度が必要となった。
古くは、社会構造については記録なども残されておらず、具体的な様相なども不明である。部族・民族ごとにさまざまな仲裁方式が取られており、一律に理解することもできない。主として「集団の中で権力を持つ者の裁定」や「神権裁判」などが仲裁として行われた可能性が指摘されている。裁定を行う権力者や神託を告げる者などが裁判官の役割を果たした(しかしまた、たとえばアイヌ民族では「ちゃらんけ」と呼ばれたが、徹底した討論によって問題解決を目指すという文化を持つ集団もあり、この場合は「仲裁者」という役割は存在しなかった)。
政治体制・統治機構が整うにつれ、一般的に裁判は王・領主・宗教者などの権力者が行うものとされ、裁判官もそれらの者、ないしはその委託を受けた者が行うようになった。この時代には裁判官(判断する者)と検察官(糾弾する者)が分離されてもいなかったことに注意する必要がある。長い間、刑事裁判では、裁判官は「犯罪者を糾弾する者」という役割をあわせて担っていた。
近現代に至って、裁判官の位置づけは大きく変更される。まず三権分立という概念が持ち込まれることで、裁判官は立法・行政からは切り離された。また、刑事裁判の面では、裁判所と検察が分離され、裁判官は「判断をする」という役割に専念することとなり「犯罪者を糾弾する」という役割を受け持たなくなった(→糾問主義・弾劾主義)。こういった役割分担の変更に伴い、裁判官は「極めて高度な法的知識を必要とする専門職」とされ、また裁判の公平性を維持するために「立法・行政からの影響を避けるための手厚い身分保障」が必要であるとされるに至った。
[編集] 日本の裁判官
日本の裁判官には、以下の6種類がある。
[編集] 選任・任期
日本の裁判官は、司法修習の終了後、そのまま判事補として任官し、そのまま裁判官としての経験を重ねていく、いわゆるキャリア制度によって採用されることがほとんどである。この点、アメリカ等で行われている法曹一元制とは異なる。
裁判所と検察庁では人事交流があり検察官から裁判官になる者がいる。また、弁護士任官制度が導入されており、数は少ないが弁護士から裁判官になる者もいる。逆に、裁判官を辞めて弁護士になる者も少なくないが、これらの元裁判官弁護士は、俗に「ヤメ判」弁護士と呼ばれる。
[編集] 最高裁判所の裁判官
最高裁判所の裁判官については、最高裁判所長官は内閣の指名に基いて天皇が任命し(日本国憲法第6条第2項、裁判所法第39条第1項)、最高裁判所判事は内閣が任命する(日本国憲法第79条第1項、裁判所法第39条第2項)。最高裁判所判事の任免は、天皇がこれを認証する(認証官。裁判所法第39条第3項)。
現実の最高裁判所判事の任命では、下級裁判所の判事、弁護士、法学者である大学教授、行政官・外交官からバランスよく就任するよう配慮されており、前任者と同じ出身母体から指名されることが多い。
最高裁判所判事に任期はなく(但し、10年ごとの国民審査がある)、70歳に達したときには退官する(日本国憲法第79条第5項、裁判所法第50条)。
[編集] 下級裁判所の裁判官
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣で任命する(日本国憲法第80条第1項、裁判所法第40条第1項)。高等裁判所長の任免は、天皇がこれを認証する(認証官。裁判所法第40条第2項)。下級裁判所の裁判官は、任期を10年とし、再任されることができる(ほとんどの場合は再任される。日本国憲法第80条第1項、裁判所法第40条第3項)。簡易裁判所の裁判官は70歳、その他の裁判所の裁判官は65歳に達した時には退官する(日本国憲法第80条第1項但書、裁判所法第50条)。
通常、旧司法試験に合格した者か、もしくは法科大学院課程を修了し新司法試験に合格した者で、司法研修所における司法修習を終え法曹資格を得た者の中から判事補として任命され、10年の実務経験を経て再任時に判事になる。なお、平成15年より法曹三者6名・学識経験者5名から成る下級裁判所裁判官諮問委員会が、最高裁判所の諮問を受けて答申・報告を行う制度が導入されている<ref>下級裁判所裁判官指名諮問委員会(裁判所)</ref>。
また、判事補で、判事補等の職に5年以上ある者の内、最高裁判所の指名する者は、いわゆる「特例判事補」として、判事と同等の権限を有するものとされる。
[編集] 裁判官の独立
裁判官は、中立の立場で公正な裁判をするために、その良心に従い独立してその職権を行い、日本国憲法及び法律にのみ拘束される(日本国憲法第76条)とされる(裁判官の職権行使の独立)。
そして、裁判官の職権行使の独立を保障するために、裁判官は行政府の圧力から独立して裁判を行えるよう、強力な身分保障がされている。まず、免官される場合は、憲法上、以下の3つの場合に限られる。
- 裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合
- 公の弾劾により罷免された場合(日本国憲法第78条前段)
- 最高裁判所の裁判官については、衆議院選挙の際に国民審査を受け、投票者の多数が罷免を可としたために罷免される場合(日本国憲法第79条2,3項)
さらに、行政機関が裁判官を懲戒する事はできないし(日本国憲法第78条後段)、裁判官の給与は在任中減額することができない(日本国憲法第80条2項)とされている。
[編集] シンボル
シンボルは篆書体の「裁」の文字を中央に配した八咫鏡(やたのかがみ)であり、八咫鏡は真実をくもりなく映し出すので裁判の公正を表す。検察官の徽章と検察事務官の徽章は異なるが、裁判所の職員は皆このシンボルを象った徽章を使用している(裁判官が金メッキを用いるなど、細部が裁判官とその他の職員とで異なる)。
裁判官は黒い法服(最高裁判所規則上は制服)を着用するが、これは「どんな意見にも左右されない」≒「どんな色にも染まらない黒」という意味があるという。
[編集] 近年の裁判官に対する批判
(注:以下の批判は、もっぱら組織としての裁判所の体質に関する事項が多く、必ずしも、すべての裁判官が以下のような批判を受ける訴訟指揮を行っているわけではない。)
- 日本の裁判官の人事は最高裁判所によって行われ、その評価は裁判所内で完結している。ユーザーの企業に対する評価のようなチェック機能が働いておらず、出世したいがために国や権力者に都合のよい判決ばかり出している裁判官が目立つという批判がある。そのように上ばかり見ている裁判官は「ヒラメ」のようだと「ヒラメ裁判官」と揶揄されることがある<ref name=APP>『司法修習生が見た裁判のウラ側―修習生もびっくり!司法の現場から』司法の現実に驚いた53期修習生の会(現代人文社)等</ref>。また、裁判官は独立して判決を下すことが法に定められているものの、最高裁の意向に逆らう判決を出すと、差別的処遇を受けることなどが指摘されている<ref name=ABE>安倍晴彦(元裁判官・現弁護士)NHK出版『犬になれなかった裁判官』等</ref>。検察庁と裁判所の癒着を指摘する意見もある<ref>「榎井村再審請求事件裁判官忌避申立却下に対する特別抗告棄却決定について」 日本弁護士連合会、1992年4月30日。</ref>。
- 日本の裁判実務は、訴訟経済的な面を重視し、効率的に訴訟処理を行わない裁判官は人事面で不利な査定を受ける。このため、特に民事訴訟において、裁判官による事実認定がおろそかになりがちだとする指摘がある。すなわち、本来、訴訟は、訴訟当事者間の主張およびその認否、証拠の積み重ねにより、裁判官が心証を得て事実認定を行い、判決の結論を導くべきものであるのに対し、一部のエリート意識の強い裁判官は、雑多な一般事件については、訴訟処理の効率性優先のために、自らの価値観に基づく事件の印象から結論を先に決め、裁判官の自由心証主義の名の下、その結論に合わせて恣意的な事実認定を行うことがしばしばあるとして、「結論ありきの裁判」と揶揄されている<ref name=ABE /><ref name=APP />。
- キャリア裁判官(職業裁判官)は、様々な立場を実体験として経験する人生経験に乏しいことから、「裁判官は世間知らず」であると揶揄されることがある<ref name=kantei>司法制度審議会 議事概要(平成12年8月9日分)</ref>。また、弁護士側からも、直接当事者と接する機会がなく、他人からの批判を受ける機会に乏しい裁判官は「世間知らず」と指摘する意見がある<ref name=gender>第二東京弁護士会『司法におけるジェンダーバイアス』</ref>。これに対して、裁判官側からは、多種多様な事件を扱うことや地方勤務によって、弁護士とは質的に異なる経験を積むことができるなどの反論もある<ref name=kantei />。
- 労働事件においては、行政事件と同様、強者側(権力を行使する側)の物の見方に偏った価値判断が行われることが比較的多いとも指摘されている<ref name=jiyuu>労働裁判改革のための意見書 (自由法曹団)</ref><ref name=nakano>中野麻美(弁護士)『労働ダンピング―雇用の多様化の果てに』(岩波新書)</ref>。一般に、職業裁判官が使用者等(権力を行使する側)に有利な判決を出すことが多いとされるのは、政治的・人事的な背景に基づく要因の他に、職業裁判官は、大学卒業後他の職業を経験することなく任官し、その職業自体が司法権という権力の行使そのものであり、権力を行使される側の立場を経験する機会に乏しいため、権力を行使される側の立場に共感することが困難であることが指摘されている。
- 日本の歴代の最高裁判所判事経験者には女性は官僚出身の2名しかおらず、裁判官を含む法曹三者から最高裁判所判事になった女性はいない。このため、男女の価値観が対立する事件では、力関係で優位に立つ男性側に共感した価値判断が出やすい環境にあり<ref name=jiyuu /><ref name=nakano /><ref name=gender />、特に労働裁判においては、男性管理職の視点に偏り、女性労働者の立場への配慮に欠いた価値判断がなされることが珍しくないとの批判がある<ref>『司法における性差別』日本弁護士連合会(明石書店)等</ref>。
- 日本の刑事裁判における有罪率は99%を超えており、裁判官が検察官の判断に依存していて推定無罪の原則に従って裁判をしていないとする批判がある。<ref>『刑事裁判の光と陰―有罪率99%の意味するもの』渡部保夫、大野正男編(有斐閣) ISBN 978-4641030657</ref>
[編集] アメリカ合衆国の裁判官
アメリカ合衆国の裁判制度は、大きく連邦裁判所と州裁判所に分けることができ、それぞれアメリカ合衆国憲法および各州の憲法をそれぞれ中心とする法制度により規律されている。各裁判所の裁判官となる要件は、それぞれまちまちであるが、一般に裁判官は、原則として、選挙ないしは特定の地位にある者による任命に基づいて選任される。弁護士などの法曹資格を有している者が選出されることが多いが、一般には、必ずしも法曹資格は要件とされていない。
また、行政聴聞手続を担当する者として、連邦および各州の双方において、行政法審判官(Administrative Law Judge)の職が設けられており、行政機関の決定に対する不服の審査などを担当している。
[編集] 選任と任期
[編集] 連邦裁判所裁判官
連邦裁判所には、一般的な司法裁判所である連邦地方・控訴・最高の各裁判所がある外、特別な事物管轄を有する裁判所として、連邦破産・租税・国際通商・巡回控訴・請求の各裁判所がある。このうち、連邦破産・租税・請求裁判所を除く各連邦裁判所については、アメリカ合衆国憲法第3条の規定に服することから、その任命はアメリカ合衆国大統領によってなされ、任期は原則として終身とされており、連邦議会による罷免の手続で認められなければ解職されない。連邦破産・租税・請求の各裁判所については、アメリカ合衆国議会の立法権の行使により設立された裁判所として理解されており、その裁判官については、それぞれの立法により選出方法・任期が定められている。
連邦裁判所の頂点に立つ連邦最高裁判所の裁判官は、長である首席裁判官1名と陪席裁判官8名のあわせて9名を定員とする。連邦最高裁判所の判事となるために必要な資格は定められておらず、弁護士でなくても構わない。共和党の大統領に任命された判事が首席を含め7名、民主党の大統領に任命された判事が2名となっている。一般的な司法裁判所としての連邦下級裁判所は、12の連邦控訴裁判所(このほかに巡回控訴裁判所がある)と94の連邦地方裁判所があり、各下級裁判所の裁判官定員は連邦議会が制定した法律により規定されている。
連邦租税裁判所・連邦請求裁判所の裁判官は、他の連邦裁判所同様、大統領が上院の助言と承認を受けて任命するが、任期は15年とされている。また、連邦破産裁判所の裁判官は、任期14年で各連邦控訴裁判所が任命する。
[編集] 州裁判所裁判官
アメリカ合衆国の州裁判所の裁判官の選任方法は、各州の憲法により通常規定されており、州ごとによって異なる。通常は特定の年数の任期が定められている。選任方法について大別すると以下の通りとなる。また州の最高裁判所などの上位裁判所の裁判官と、下級裁判所の裁判官の選任方法に違いを設けている場合がある。
- 政党が関与する選挙による選出(アラバマ州など8州)
- 政党色を出さない選挙による選出(アーカンソー州など15州)
- 州議会による選出(コネチカット州など5州)
- 州知事による任命(州上院の承認等を要する場合がある)(デラウェア州など8州)
- 選定委員会が絞った候補中から州知事が任命など(ミズーリ州など14州)
[編集] ドイツの裁判官
ドイツにおいては、法曹となる資格を得るためには、大学で3年半以上の期間、法学について履修した上で、第1次の国家試験を受験し、2年間の修習生を経て、第2次の国家試験に合格する必要がある<ref>『ドイツにおける裁判官任用制度の概要』 裁判官の人事評価の在り方に関する研究会 第3回資料</ref>。
裁判官は各州の公募により採用されている。法曹資格の授与は州の権限であるが、いずれかの州で資格を得れば、どの州でも裁判官となることができる。採用当初の3年から5年間は試用裁判官として身分保障が制限されている。その後、ポストに空きがある場合には、公募に応じることで終身裁判官に任命される<ref>『ドイツ(州レベル)における裁判官の人事制度』 裁判官の人事評価の在り方に関する研究会 第3回資料</ref>。
裁判官も政党に所属ないしは政党を支持していることが珍しくない。州の地方裁判所の裁判長となるためには、さらに別途の能力認定試験をクリアする必要がある<ref>『ドイツの裁判官制度の実情について」』裁判官の人事評価の在り方に関する研究会 福田剛久委員 裁判所公式</ref>。
[編集] 裁判官を題材にした作品
- 家栽の人 - 家庭裁判所裁判官が主役の青年漫画。
- それでもボクはやってない - 痴漢冤罪を通して日本の刑事裁判を描いた映画であるが、裁判の進行がリアルに描かれ、二人の正反対のタイプの裁判官が登場する。
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 最高裁判所判事一覧表
- 東京高等裁判所 担当裁判官一覧
- 知的財産高等裁判所 担当裁判官一覧
- 東京地方裁判所(民事部)担当裁判官一覧
- 東京地方裁判所(刑事部)担当裁判官一覧
- 下級裁判所裁判官指名諮問委員会
- 日本裁判官ネットワークホームページ
- 司法におけるジェンダーバイアス(第二東京弁護士会)
- 労働裁判改革のための意見書 (自由法曹団)

