葛飾政党ビラ配布事件
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葛飾政党ビラ配布事件(かつしかせいとうビラはいふじけん)は、日本共産党に関連する僧侶が東京都葛飾区内のマンションの戸別のドアポストに日本共産党のビラを配布し、その際のマンションへの立入り行為が住居侵入罪に該当するとして逮捕・起訴された事件。表現の自由に対する弾圧との批判もある。
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[編集] 概要
平成16年(2004年)12月23日午後2時30分前後、日本共産党に関係のある僧侶が、東京都葛飾区内にあるマンション(オートロック未設置)へ立ち入った。その目的は、日本共産党が発行する都議会報告や区議会だより、区民アンケートの用紙と返信用封筒などを、マンション入り口の集合郵便受けではなしに、各階の居室にあるドアポストに投函するためである。ポストへの投函作業の途中、これを見咎めたマンション住民の男性らが警察へ通報。僧侶は、通報を受けて駆けつけた警察官に当該マンションから退去させられ、警察署で事情を聴かれた。その後、僧侶は帰宅しようしたが、警察より住居侵入容疑で逮捕されているために帰宅できない旨を告げられ、23日間勾留されたのち、住居侵入罪により起訴(公訴提起)された。
[編集] 争点
裁判上直接争われたのは、この公訴提起が検察官の裁量権の逸脱となるか、及び、ビラ配りのためマンションへ立ち入った被告人の行為が住居侵入罪となるか、の二点である。
上記争点の背景には、被告人の行為は政治活動であり、表現の自由によって保障される行為であることから、被告人の逮捕・起訴はこれを不当に侵害するものではないかという主張がある。
また、警察を呼んだ住民が公安で使われる特殊な用語を使っていたことなどから、最初から被疑者を拘束するのを目的に仕組んだ事件であるとも言われている。
[編集] 裁判
[編集] 第一審
第一審(東京地方裁判所平成18年8月28日判決、事件番号:平成17年(刑わ)第61号)は、被告人(上記僧侶)を無罪とした。
検察官の主張は、被告の立ち入りでマンション住民は不安を持ったこと、他人の権利(この場合はマンション住民の居住権等)を侵害することは許されないとするものである。 他方、被告人の主張は、公訴提起に至る捜査手続に重大な違法があることを理由に公訴棄却すべきこと、捜査・起訴の目的が言論弾圧にあるため公訴権濫用に当たること、及び、逮捕手続が違法であることである。
上記主張に対し、裁判所(大島隆明裁判長)は、被告人を無罪とした(求刑は罰金10万円であった)。
裁判所は、先ず、公訴権濫用であるという被告人の主張を斥けた。被告人は、適法な逮捕手続が存在しないこと、適法な弁解録取手続が行われていないこと、及び、事案の性質に比して著しく過大な捜査がなされていることなどを理由に公訴棄却を主張したが、裁判所はいずれの点についても違法はなかったとして、被告人の主張を斥けている。まず、「被告人を逮捕された者と扱うか任意同行と扱うか関係者間にやや混乱があったことを窺わる」としつつも、適法に現行犯逮捕がなされていると認めている。次に、弁解録取手続についても違法はないとした。そして、事案の性質に比較して大規模な捜査(被告人方への捜索、事件現場であるマンションの大規模な実況見分)が行われたとしても、それによって被告人の権利・利益が侵害されたものではなく、大規模な捜査をする必要性の有無が公訴提起の有効無効に影響することはないとした。
なお、警察を呼んだ住民が「PCを使え」(PCとはパトカーのこと)「ガラは押さえた」(身柄を押さえたの意)という具合に公安で使われる特殊な用語を使っていたなどとして、最初から被疑者を拘束するのを目的に仕組んだ事件であるとも主張される(裁判において主張されたかどうかは定かでない)。しかし、裁判においてそうした言動があったことその他警察と当該住人との特殊な関係は認定されておらず、他方、警察を呼んだ住民もビラが配布されたマンション3階の居住者であることが認定されている。
次に、住居侵入罪の成否についてであるが、第一に、被告人が立ち入った場所が刑法130条にいう「住居」に当たることは認めている。
第二に、被告人の立入り行為が刑法130条に言う「侵入」に該当するか否かについて検討している。
まず裁判所は、被告人の行為が憲法21条によって保障されるものであるとしても直ちに住居侵入罪を構成しないとの考えを排斥し、「正当な理由」のある立入りであれば住居侵入罪しないが、そこにいう「正当な理由」は社会通念から判断されるとの一般論、すなわち、立入りの「目的自体は決して不法なものではない場合、どのようなときであれば立ち入りを許されるかは、共同住宅の形態、立ち入りの目的・態様等に照らし、その時の社会通念を基準として、法秩序全体の見地からみて社会通念上容認されざる行為といえるのか否かによって判断するほかはない。」との判断の枠組み」提示する。
そして、被告人の行為について、以下のように認定する。
- 集合郵便受けがあるにもかかわらずドアポストへ投函した目的は確実にビラを読んでもらうことにあった。
- 配布したビラの内容は犯罪を助長又は風紀を乱すものではなく、それを受け取っても住居の平穏・プライバシーを侵害されるとの危惧は抱かないものであった。
- 被告人の立ち入った時間帯は昼前あり、人目を避けようともしていなかった。
- 滞在時間はせいぜい7、8分(長くともプラス2、3分)で合った。
これらは被告人の行為が「侵入」に該当しない(あるいは可罰的違法性がない)との評価に傾く事実である。
他方で、他人が住居へ立ち入って政治的意見を表明することを受忍する義務はないため、たとえ被告人の行為が憲法21条によって保障されるとしても、そのことから直ちに犯罪の成立が否定されるとの論を再度斥けた上で、「全くの部外者が集合住宅の共用部分に立ち入ること自体に不安感、不快感を感じる居住者は相当数存在するものと考えられるから」そのような居住者の心情も尊重されなければならず、「立入りの目的が政治ビラの投函で、その態様も平穏なものにとどまるとしても、そうした立入りが一般に社会通念上容認されざる行為には当たらないものと断定してよいかとなると、若干躊躇を覚えざるを得ない」と判示する。これについて被告人は、居住者とであった場合には目的を明らかにして不安の払拭に務めていたと供述しているが、それは「マンションの居住者の心情への配慮をやや欠いており、独りよがりな面がないとはいえない」とされている。
以上を前提にビラ配りのための立入りが社会通念上許容されているか否かを検討している。そこでは、目的如何を問わず集合住宅の共用部分への立ち居入りが控えられるべきであるとの考えが、プライバシー・防犯意識の高まりから近年強まっていることを認めつつも、一般化・規範化しているとは言えないとした。つまり、「現時点では、各住戸のドアポストに配布する目的で、昼間に居住用マンションの通路や階段等に短時間立ち入ることが明らかに許容されない行為であるとすることについての社会的な合意が未だ確立しているとは言い難く、これが社会の規範の一部となっているとは認められない」と言うのである。その理由づけとして、かつては政治ビラ・商業ビラのドアポストへの配布をそれほど問題視していなかった風潮があり、現に問題となったマンションでもビザの宅配業者による商業ビラが配布されており、そうした業者が逮捕されたという報道も耳にしないということに触れている。
以上より、「被告人の立入りについては正当な理由がないとはいえない」として、住居侵入罪を構成する違法な行為であるとは認められないとした。
これらの判断に加え、裁判所は、政治目的のビラ配布目的も含めて立ち入りを禁じる合意がマンション住民において形成されており、被告人の立入り行為は住居権者の意思に反するとしながらも、そうした立入りを禁じる意思表示が来訪者に伝わるような形で表示されていたとはいえない(明確な立入禁止の表示がされていない)ため、これを「正当な理由」のない立入行為であると解することはできないとして、やはり住居侵入罪の成立を否定している。確かにマンションの掲示板には『チラシ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます。』との掲示物があったものの、実際には投函が黙認されていたことからそれでは明確な立ち入り禁止の表示ではないとしたのである。
[編集] 関連項目
- ただし本事件の第一審判決は、「いわゆる自衛隊の立川宿舎への侵入事件があるが本件とは相当に事案を異にする。」としている。

