著作権の準拠法
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著作権の準拠法(ちょさくけんのじゅんきょほう)とは、著作物をめぐる渉外的私法関係に関して適用される法域の法のことをいう。
もっとも、文献によっては準拠法の指定に関する問題(国際私法に関する問題)と外国人法に関する問題(内国における外国人の地位・権利に関する問題)とを特に区別せずに著作権の国際的保護について論じているものが多く、場合によっては両者を混同しているものも見受けられる。このため、本項目では準拠法の問題のほか、外国人法の問題も扱う。
なお、日本の著作権法6条1号が日本国民の著作物の保護について明記しているためか、よく著作権者の国籍により準拠法が決まるという誤解がされることがある(同条は日本の著作権法により保護の対象となる著作物を規定したものであって、準拠法を規定したものではない)。しかし、準拠法とされた国の法により著作権の享有が制限されること等はあっても(後述する外国人法の問題)、著作権者の国籍により著作物をめぐる法律関係の準拠法が指定されるというルールは存在しないことに注意を要する(つまり、日本人の創作による著作権の効力は日本法によるという説明は不適切である)。
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[編集] 狭義の準拠法の問題
[編集] 著作権の内容と効力に関する準拠法
著作物の利用行為を巡る渉外的な法律関係につき、どのような連結点を媒介として準拠法を指定するかについては、以下のような考え方が主張されてきた。
- 本源国法説
- 著作物について最初に著作権が発生した地の法が準拠法になるとする見解。
- 保護国法説
- 著作物の利用行為や著作権の侵害行為の行われた地の法が準拠法になるとする見解。
- 法廷地法説
- 著作物の利用行為を巡る訴訟が係属した裁判所が属する地の法(法廷地法)が準拠法になるとする見解。
この点については、著作権の効力はその国の領域内に限られ、ある国の領域外の利用行為によって国内の著作権が侵害されることはないという属地主義の原則が妥当すると解されているところ、このような属地主義の原則と整合性があるのは、著作物を現実に利用した地の法を準拠法にすることであるとして、保護国法説が一般的に支持されている。この見解によると、日本における著作物の利用行為が著作権侵害になるか否かは、もっぱら日本の著作権法により判断され、アメリカ合衆国における著作物の利用が著作権侵害になるか否かは、もっぱらアメリカ合衆国の著作権法により判断されることになる。
保護国法説の成文法上の根拠については、著作権の保護の範囲等につきベルヌ条約5条2項が「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」と規定していることに求める見解、物権の準拠法に準じて扱う(日本では法の適用に関する通則法13条(旧法例10条1項))のが妥当とする見解、ベルヌ条約が内国民待遇(5条1項)を求めていることを根拠とする見解(もっとも、内国民待遇は後述する外国人法の問題であり、準拠法に関する保護国法説との関連はないと考えるのが一般である)がある。この点、スイスの国際私法には、保護国法説を採用する旨の明文の規定がある。
もっとも、法廷地法説に立脚する立場から、ベルヌ条約5条2項は保護国法説を採用するものではなく、法廷地法説を採用する旨の規定であると主張する見解がある。法廷地法説とは言っても、実質法(この場合は著作権法)につき法廷地法が適用されるとする見解と、国際私法につき法廷地法が適用されるとする見解とがあるが、前者については、フォーラム・ショッピングを招いたり著作物の利用と関連しない地の法を適用する結果を招くという批判が、後者については、(反致の場合を除き)法廷地の国際私法が適用になるのは国際私法の一般理論として当たり前であり条約で決める必然性がないという批判があり、いずれも少数説にとどまる。
なお、著作権が成立した地の法が準拠法になるとする説明がされる場合があり、誤解されることが多いが、この表現は本源国法説を説明したものではなく、保護国法説を説明したものであることに注意を要する。著作権の効力に関する属地主義を前提として、同じ著作物について、A国においてはA国法に基づく著作権が成立し、B国においてはB国法に基づく著作権が成立することを念頭に置いた説明であり、最初に成立した地がどこかという自体そもそも問題にはしていない。
[編集] 救済措置に関する準拠法
著作権侵害に対する救済措置については、差止請求、廃棄請求、損害賠償請求などが考えられる(日本においては、著作権法112条、民法709条など)。この救済措置の準拠法については、著作権の準拠法と当然に同一と考えるべきかが議論されている。
大まかに言うと、いずれも著作権の効果の問題であるとして著作権の準拠法によるとする見解、著作権の準拠法は救済措置の準拠法の前提問題であるとして別途準拠法を考える見解、差止請求や廃棄請求は著作権の準拠法に従うが損害賠償については別途準拠法を考える見解に分かれる。
救済措置に関する準拠法を著作権の準拠法とは別途考える見解によると、特別の規定がない限り救済措置は不法行為の準拠法によることになる。したがって、日本の裁判所で問題になる場合は法の適用に関する通則法17条(旧法例11条1項)が適用され「加害行為の結果が発生した地の法による」ことになる。もっとも、著作権の利用行為地と不法行為の原因たる事実の発生地は通常の場合一致することが多いこともあり、この問題を意識せずに準拠法について論じている文献も見受けられる。
もっとも、著作物の利用が外国で行われた場合、当該外国法を適用すれば最終的に解決するというわけではない。例えば、著作物の利用行為地がフランスであったとすると、保護国法説によれば、著作権侵害による差止請求が認められるか否かは本来はフランス法によって判断される。しかし、当該差止請求訴訟が日本の裁判所に係属した場合、フランス法の解釈では差止請求が認められるとしても、当該利用行為が日本の著作権法によれば著作権侵害に該当しない場合は、法の適用に関する通則法22条2項(旧法例11条3項)にいう「日本法により認められる損害賠償その他の処分でな」いものとして、差止請求は否定されることになる。
[編集] 利用許諾契約の準拠法
著作物の利用許諾契約の成立やその効力については、法が著作物について特段の定めをしていない限り、国際私法上は、契約関係に適用される準拠法によることになる。
そのため、例えば日本の裁判所において利用許諾契約の成立や効力が問題となった場合は、法律行為の成立及び効力の準拠法について規定した法の適用に関する通則法7条、8条(旧法例7条。日本の国際私法では、契約は独立した単位法律関係として扱われていない)により、原則として契約当事者の意思に従って準拠法が指定されることになり、当事者の意思が不分明である場合は、契約をした地の法が準拠法になる。
[編集] 外国人法の問題
以上のように著作物の利用行為地の法が準拠法として指定されるとして、その法が外国人の地位を自国民と同様に扱っているとは限らない。例えば、日本の民法3条2項は、外国人は「法令又は条約の規定により禁止される場合を除き」私権を享有する旨規定している。このような、内国における外国人の地位を定める法を外国人法(外人法)というが、著作権保護の場面においても外国人の地位をどう扱うかが問題となる。
この点につきベルヌ条約5条1項、3項、万国著作権条約2条が、いわゆる締約国国民の内国民待遇の原則を定めている。したがって、これらの条約の締結国間においては、原則として外国人法の問題はない。
ただし、著作権の保護期間に関しては相互主義が認められている。すなわち、ベルヌ条約7条8項によれば、著作権の保護期間は、保護国法によるものの、特別の定めがない限り著作物の本国において定められる保護期間を超えることはない旨規定している。つまり、保護国法で定められた保護期間が、本国法で定められた保護期間より長い場合であっても、当該著作物の保護期間を短い法である本国法によることを可能にしている。
[編集] インターネットと保護国法(公衆送信権の扱い)
一般的に受け入れられている保護国法説によれば、著作物の利用行為が著作権侵害になるか否かについては、利用行為地の法により定まることになる。しかし、インターネット上で著作物が公開されている場合を想定すると、著作権の支分権としての公衆送信権の扱いにつき、どの地を利用行為地とするかという問題を生じる。この点の問題については国際的に確立された準則は存在しないが、概ね以下のような議論がされている。
[編集] 発信国法主義
この点につき、伝統的な保護国法説の発想に立脚すれば、著作物の利用行為が行われているのは発信行為が行われた地、すなわちサーバの所在地の法が準拠法になるという結論が導かれる。
この見解は、著作権の準拠法に関する伝統的な考え方と整合性があるのみならず、後述する受信国法主義と異なり準拠法は一つしか考えられないので、著作物の発信行為が著作権侵害になるか否かにつき予見性が高まるメリットがある。
しかし、この見解によると、サーバをどこに置こうが著作物送信の需要には影響を与えないのみならず、しかも同時に多数の地域で受信できるにもかかわらず、著作権保護に薄い国や著作権保護に欠ける国にサーバを置くことにより、著作権の保護の範囲を意図的に変えることが可能となり、著作権者の権利を容易に無視し得ることになる(いわゆる法律回避が生じる)。
[編集] 受信国法主義
以上のような発信国法主義の問題等を踏まえ、著作物の利用行為が行われているのは受信地であるとして、サーバにアクセスしてデータの受信行為を行う者の所在地の法が準拠法になるという見解も唱えられている。
受信国法主義は、発信国法主義と異なり法律回避の問題が生じるのを避けることができるが、サーバの所在地にかかわらず、多数の国で受信することが可能である以上、A国での受信についてはA国法、B国での受信についてはB国法によって著作権侵害か否かが判断させることになり、法律関係が錯綜することになる。
また、著作権侵害を主張する立場にある者からすれば、データが受信可能と考えられる国のうち、最も自己の権利の保護に厚い国の法の適用を主張することが可能になる。しかし、このような結果を容認すると、著作物の利用について当事者が想定していなかった地の法を適用することが可能になり、送信者側に対する負担が過大なものとなる。
[編集] 折衷的な考え方
以上の見解には、いずれにも難点があるため、利用行為地の認定につき問題がある場合につき修正を施す考え方も提示されている。
まず、発信国法主義を前提としつつ、サーバの所在地が国際的に要求される著作権の保護水準を満たしていない国(コピーライト・ヘイブン)に置かれている場合は、サーバへデータを送信する行為があった地を準拠法とする見解が提示されている(連結点の段階的連結)。この見解によれば法律回避を防止することは可能になるが、そもそも著作権の保護水準を客観的に判断することは不可能であるという批判も成り立つ。
これに対し、受信国法主義を前提としつつ、発信者が想定している受信者層が特定の国に集中していると考えられる場合は、当該国の法を準拠法とする考え方もある。例えば、日本語コンテンツの場合、日本国外でも受信行為があったとしても、主なサイトの利用者は日本国内に集中しているとして、日本法が準拠法と指定されることになる。しかし、受信者層が特定の国に集中しているような事情がない場合(英語が使われているような場合)には、どの地域を主たる受信地として想定するのか困難であるという批判も成り立つ。
[編集] 公衆送信権の内容を問題とする考え方
以上の議論とは別に、インターネットにおける著作権侵害の事案は、専ら公衆送信権の問題であること及び著作権の効力の属地主義を前提とした上で、公衆送信権の内容を重視する考え方がある。公衆送信権とは言っても、送信する行為が権利内容とされているのか公衆に受信させる行為が権利内容とされているのかは各国により異なるため、著作物の利用行為地を発信国とすべきか受信国とすべきかという議論自体が不適切という問題意識に基づく。
例えば、サーバが所在するA国から公衆送信された著作物がB国で受信された場合を考えると、送信国であるA国著作権法の公衆送信権が「送信する行為」を権利内容としているのであれば、A国における公衆送信権侵害の問題が生じ得るが、「公衆に受信させる行為」を権利内容としているのであれば、B国内の受信行為にA国著作権法を適用することはできない(著作権の効力の属地主義に基づく帰結)。そして、受信国であるB国著作権法の公衆送信権が「送信する行為」を権利内容とするのであれば、A国内の送信行為にB国著作権法を適用することはできず、「受信させる行為」を権利内容とするのであれば、B国における公衆送信権侵害の問題が生じ得ることになる。
この見解に対しては、渉外的私法関係については、実質法の適用の前に必ず準拠法の選択という問題があるはずであり、準拠法の選択の問題を抜きにしていきなり実質法の解釈を問題にするのは、国際私法に関するルールを無視するものであるとの批判がある。
[編集] 著作物の本国法が保護を否定している場合
著作物の本国法によれば保護が否定される(当初からパブリックドメインとなっている場合)が、著作物の利用地法によれば保護の対象となる著作物の扱いについては、以下のような問題がある。
保護国法説を純粋に適用すれば、著作物の本国法で保護が否定されている場合であっても、著作物の利用地で保護の対象になっている以上、利用地法を適用して著作物の保護を認めるべきことになる。しかし、そのような著作物については本国における著作権の保護期間はゼロであると理解することも可能である。そのような理解を前提とすれば、著作権の保護期間に関する相互主義の対象となり、利用地においても保護が否定されることになる。
この点、万国著作権条約の解釈としては後者の解釈が採用されており、日本においては、同条約の実施のために制定された万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律(昭和31年法律第86号)3条2項で、その旨が明らかにされている。ただし、ベルヌ条約と万国著作権条約の双方を批准している国との間ではベルヌ条約が優先して適用されるため、ベルヌ条約の締結国が本国となる場合には、解釈上の問題が残っている(詳細は、パブリックドメイン#外国著作物に関する問題を参照)。
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