結核

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結核(けっかく)とは、結核菌 Mycobacterium tuberculosis により引き起こされる感染症。結核菌は1882年に細菌学者ロベルト・コッホによって発見された。日本では、明治初期まで肺結核は労咳(ろうがい)と呼ばれていた。

目次

[編集] 概要

空気感染が多くなどの呼吸器官においての発症が目立つが、中枢神経(髄膜炎)、リンパ組織、血流(粟粒結核)、泌尿生殖器、骨、関節などにも感染し、発症する器官も全身に及ぶ。結核菌は様々な器官において細胞内寄生を行い、免疫システムはこれを宿主細胞もろともに攻撃するため、広範に組織が破壊され、放置すれば重篤な症状を起こして高い頻度で死に至る。肺結核における激しい肺出血とそれによる喀血、またそれによって起こる窒息死がこうした病態を象徴している。

ストレプトマイシンなどの結核菌に効果のある抗生物質が発見され、治療に使われるまでの長い間、不治の病とされ恐れられ、かつては日本では国民病・亡国病とまで言われる程の侵淫を見た。現在でも日本や欧米を含む世界中に分布しており、毎年300万人が結核により命を落としている。

日本では第二次世界大戦後、抗生物質を用いた化学療法の普及などによって激減し、戦前のあまりにもひどい侵淫振りと比較して既に過去の病気であると豪語する傾向も、一時一部の医療関係者の間で見られた。しかし、その抑制の程度も結局のところ他の先進工業国に比べて突出した感染率と死亡率を維持したままである。2001年5月に20名の集団感染が発生した大学で診断を実施した教授が「関心の低下も一因」と指摘する<ref>『読売新聞』2001年5月24日 東京朝刊34面。長尾啓一千葉大学教授。</ref>など、結核の危険性に対する日本国民の関心低下が指摘<ref>「結核対策の包括的見直しに関する提言」厚生科学審議会感染症分科会結核部会報告 2002年3月20日</ref>されており、今日では逆に「結核は過去の病気ではない」というスローガンで注意の喚起が叫ばれている。

予防策として日本ではBCGが行われているが、アメリカでは行われていない。フランスなどのヨーロッパ諸国では継続して行われている国も、中止に到った国もある。BCGを行うことのメリットは、小児の結核性髄膜炎と粟粒結核の頻度を有意に減少させることにある(有効性 80%)。しかし、成人の結核症を減少させるというエビデンスはない(有効性 50%)。いっぽうデメリットとしては、ツベルクリン反応を陽性化させてしまうため結核の診断が遅れることにある。結核菌の頻度が低い地域ではBCGを行うデメリットが大きいと思われる。BCGを中止したスウェーデン、旧東ドイツ、チェコスロバキア等では、中止後小児結核が増加した。残念ながら結核菌の頻度が高い(特に家族間感染が多い)日本などの地域では今後もBCGは行われてゆくだろう。

なお、日本ではまずツベルクリン反応検査を行い、陰性反応が出た者のみにBCG接種を行う形だったが、2005年4月1日より結核予防法の改定により、ツベルクリン反応検査を行わずに全員にBCG接種を行う形になった。

[編集] 総論

[編集] 病原体

結核は、抗酸菌群に属するマイコバクテリウム・テュバキュローシス Mycobacterium tuberculosis(ヒト型結核菌)、M. bovis(ウシ型結核菌)、M. africanum(アフリカ型結核菌)等結核菌群によっておこるが、日本の結核は主に M. tuberculosis による。 なお、余談ながら "tuberculosis" は発音としては「テュバキュローシス」の方がより正確であるが、日本では「ツベルクローシス」と読まれることが多い。

[編集] 伝播様式

結核菌を含む飛沫核の吸入による。空気感染を示す。

[編集] 一次結核

吸入された結核菌がリンパ行性、血行性に体中に広がり細胞内に寄生して潜伏する。無症状である。免疫応答が不十分な宿主においては結核症を発症する。典型的には上肺野、肺尖部領域の肺結核を発症する。

[編集] 再活性化

充分な免疫応答が得られても、宿主の免疫機能が後天的に障害されると、結核菌は活性化する。宿主の免疫機能が障害される例としては、加齢、AIDS糖尿病悪性腫瘍ステロイドやインフリキシマブといった薬物の使用が挙げられる。

[編集] 肺結核

[編集] 症状

当初は全身倦怠感、食欲不振、体重減少、37℃前後の微熱が長期間にわたって続く、就寝中に大量の汗をかく等非特異的であり、咳嗽(痰は伴うことも伴わないこともあり、また血痰を伴うことがある)が疾患の進行にしたがって発症してくる。昔は「不治の病」「難病」と呼ばれていた。

[編集] 検査所見

喀痰塗抹検査(チール・ニールセン染色)は喀痰中の抗酸菌の有無および排菌量をみる検査であり、まず行うべき方法である。喀痰中の排菌量はガフキー号数で表記する。しかし,結核菌か非結核性抗酸菌かの同定はできない。菌の同定および薬剤耐性を調べるには喀痰培養検査を行うが、結核菌は培養による繁殖が遅く、3-6週間かかってしまうため早期診断には適さない。早期診断には喀痰の結核菌DNAのPCR法が有用である。感度特異度が高く日本でも普及してきている。

気管支鏡下のBAL(気管支肺胞洗浄)やTBLB(経気管支肺生検)も診断に有用である。胃液検査は培養のみが検査に適するので早期診断に有用ではない。血液培養をする場合は専用のスピッツが必要である。

胸水がある場合、胸水培養で結核菌が陽性になるのは25%未満である。胸膜生検が必要である。

ツベルクリン反応は、前述の通り日本ではBCG接種が義務であるため欧米より信頼性が乏しい検査となっている。それでも、発赤20mm以上、硬結10mm以上の「強陽性」の所見は活動性の結核感染を示唆する。「中等度陽性」は、特に結核の診断の可能性を高めるものでも低くするものでもないと考えられる。免疫不全患者や悪性リンパ腫などでは結核に関する免疫が成立していたり現在結核菌感染があってもツベルクリン反応が陰性になり、「アネルギー」と呼ばれる。

2006年1月1日にクオンティフェロンTB2G(QuantiFERON-TB2G)が保険収載された。この検査は,全血を結核菌特異的なタンパク(ESAT-6およびCFP-10)で刺激し、結核菌特異的T細胞の産生するインターフェロンγの産生量をみることで、結核感染を診断する検査である。BCGや非結核性抗酸菌感染の影響を受けず、感度89%、特異度98%と報告<ref>原田登之他「結核菌抗原ESAT-6およびCFP-10を用いた結核感染診断法QuantiFERON(R)TB-2Gの基礎的検討」『結核』79号、725-735頁、2004年</ref>される。

[編集] 画像所見

肺浸潤影と娘結節の存在、肺門リンパ節腫大、胸水。専門医でないと画像からの正確な診断は難しい。

[編集] 治療

歴史的にはストレプトマイシン単剤が結核菌に効果があったようだが、現在は耐性獲得の危険があるため単剤での治療は行わない。現在ではイソニアジド (INH)、リファンピシン (RFP)、ピラジナミド (PZA)、エタンブトール (EB)(またはストレプトマイシン (SM))の4剤併用療法を行うべきであると考えられている。それぞれ副作用が知られているため注意しつつ投与する必要がある。結核菌はこのそれぞれの薬物に耐性をもつものが存在するが、イソニアジドおよびリファンピシンの二者に耐性をもつ菌は多剤耐性結核菌と呼ばれ、治療に難渋することがある。一度発症した場合は6~9ヶ月の投薬療法が一般的である。治療を正確に完了した場合、再発率は5%未満である。しかし、治療中断により結核菌に耐性ができ、集団感染することが問題となっている。その為確実な薬の服用を目指したDOTS/直接監視下短期化学療法の実施拡大が求められている。

肺結核は空気感染を示すため、排菌のある結核患者は結核予防法により結核病棟への入院が義務づけられている。医療従事者はN95マスクを装着する必要がある。患者の搬送は最低限にすべきであるが、どうしても必要な場合患者に通常のマスクを、医療従事者にN95マスクを装着し、窓を開けるなど換気に留意する。

[編集] 結核性髄膜炎

亜急性髄膜炎の鑑別のひとつである。真菌性、梅毒性、癌性髄膜炎との鑑別を要する。

[編集] 症状

無気力、過敏、食欲不振、発熱、頭痛、嘔吐、痙攣、昏睡である。行動の変化をみとめることもある。また、多部位の結核菌感染の症状を認めることがある。

[編集] 身体所見

項部硬直、脳神経麻痺症状を認めることがある。

[編集] 検査所見

髄液は黄色くて、cell 100-500(単核球優位)、高蛋白、低グルコースを示す。細菌性髄膜炎と比べて明らかに弱い所見を示す。髄液の塗抹検査は通常陰性で、培養も最大25%の症例で陰性である。髄液PCRは感度が高い。

[編集] 治療法

肺結核症と同様である。イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドは髄液移行性がよい。エタンブトール,ストレプトマイシンは基本的に髄液移行性は不良であるが、髄膜の炎症が認められる場合には髄液中に移行する。デキサメタゾンは細菌性のようなエビデンスはないが、用いることがある。

[編集] 結核性リンパ節炎

頚部腫瘤の鑑別のひとつである。感染症による反応性リンパ節腫脹や、腫瘍性、サルコイドーシス猫ひっかき病、菊池病、自己免疫性リンパ節炎との鑑別を要する。診断は、針吸引による細胞診、塗抹、培養、PCRによる。リンパ節生検が必要なこともある。

[編集] 結核性心膜炎

先進国ではまれである。発熱、寝汗、疲労が数週間から数ヶ月続く。心嚢水の塗抹・培養による結核菌陽性率は低い。心膜生検による肉芽腫の証明や培養、PCRは診断を確定するが侵襲性が高い。他部位における結核菌の証明によって診断を推定するのが一般的であると考えられる。治療は肺結核と同様であるが収縮性心外膜炎を後遺症として残すことがある。

[編集] 結核性腹膜炎

[編集] 症状

微熱、腹痛、食欲不振、体重減少など非特異的である。

[編集] 検査所見

腹水の抗酸菌塗抹検査は通常陰性であり、培養の陽性率は20%にすぎない。ただし大量の腹水を培養することにより85%まで高めることができる。腹水のアデノシン・デアミナーゼADA値は肝硬変による腹水がある患者では、結核性腹膜炎の合併を予測できると示されている。しかしその他の場合には有用ではない。

診断の確定は腹腔鏡検査であり、特徴的な腹膜結節を認め腹膜生検で肉芽腫を認めることができる。

[編集] 治療法

肺結核と同様である。

[編集] 腸結核

腸結核は典型的には回盲部に起こり、クローン病との鑑別が問題となる。ただしその他のどの部位もおかされうる。

[編集] 症状

慢性的な腹痛、閉塞症状、体重減少、下痢などである。

[編集] 画像所見

50%未満の患者では活動性肺結核を伴い、胸部レントゲンで認めることができる。

大腸内視鏡検査にて多発潰瘍、潰瘍化した集塊、無茎性ポリープ、小憩室を認める。

診断確定は、大腸内視鏡下の生検にて乾酪性肉芽腫を認めたり結核菌培養が陽性であるときである。生検標本のPCRによる結核菌DNAの検出は、迅速で最も感度が高い。

[編集] 合併症

腸閉塞出血瘻孔形成がおこることがある。

[編集] 治療

肺結核と同様である。

[編集] 腎結核

無菌性膿尿の原因のひとつ。漆喰腎を発症する。尿培養にて結核菌が証明される。治療法は、肺結核と同様である。

[編集] 副腎結核

慢性副腎不全の鑑別のひとつ。特に結核症の頻度が高い地域では慢性副腎不全の主要な原因である。自己免疫性副腎不全、Waterhouse-Friedrichsen症候群、抗リン脂質抗体症候群抗凝固薬の使用による両側副腎出血、転移性腫瘍など鑑別は多岐にわたる。

[編集] 結核性卵管炎

骨盤痛と、骨盤腫瘤を生じ、発展途上国に多い。骨盤内炎症性疾患PIDの鑑別診断のひとつである。

[編集] 筋骨格系の結核症

胸椎・腰椎の結核症や単関節の結核症(主に膝関節)が知られている。代表的な疾患は脊椎カリエスである。診断は、骨・骨膜・所属リンパ節生検による乾酪壊死の証明や関節液、膿汁の塗抹・培養・PCRである。鑑別疾患は、亜急性・慢性の感染性関節炎や骨の感染症、関節リウマチ痛風転移性腫瘍である。治療は、肺結核と同様であるが滑膜切除術をおこなうこともある。

[編集] 逸話

結核、特に肺結核は労咳と呼ばれ、古くから日本に多く見られる病気のひとつで、特に明治期以降国民病といわれるまでに罹患者の多い疾病であったために、近代以降の文化史につよい影響を与えている。特に明治期まではほとんど打つ手のない死病であり、若くしてこの病によって命を落とす人が少なくなかったこと、また喀血症状が古くからの「血を吐くまで苦しむ(恋や悩みに)」という言いまわしと重ねあわしてとらえられたことなどから、小説映画のなかでは薄倖の才子佳人に特有の病気として悲劇的に描かれることが多かった。

集団生活が基本であり、集団感染の危険が高い陸海軍でもこの病気には非常に気を使い、徴兵検査では特に厳重な胸部検査をし、さらに陸軍士官学校などでは度々ツベルクリン反応検査をしたり寝台は頭と足をの向きを交互にするなどして対応していた。また兵役中に結核を発症した場合、「軍隊で結核にかかった」などの悪評が広がる事を防ぐため、肺浸潤や肋膜炎などのぼかした表現を使用した。

死亡率が高かった頃は、病名「結核」はあまりにも直接的で人々の口に出しづらかった。このため学名の tuberculosis から、医師らはカルテに "TB" と記すことが多く、またドイツ語読みが原則であったため「テーベー」と言い習わした。ここから出発して一般人も「テーベー」と呼ぶことが多かった。現在でも医者同士の会話などでは「テーベー」は普通に使われているし、略号としての "TB" もしばしば使われる。

  • 新選組沖田総司は肺結核のために病死した。このため幕末ものの小説映画では彼を悲劇の天才剣士として描くことが多い。沖田が池田屋事件で大喀血を引起こしながら大立回りをつづける場面は新選組もののハイライトのひとつである。但し池田屋事件当時、同じく隊士であった永倉新八新選組顛末記によると沖田が喀血したとは書かれておらず、昏倒した事だけが書かれている事から、喀血した話は子母澤寛の『新選組始末記』での創作という説もあり、真相は不明である。
  • 正岡子規は結核を病み、喀血後、みずからを血を吐くまで鳴きつづけるというホトトギスになぞらえて子規(漢語でホトトギスの意)という号をもっぱら用いた。
  • 結核に「悲劇の病」というイメージを与えるに決定的であったのは、徳富蘆花の傑作『不如帰』であろう。美貌のヒロイン浪子が武男を慕いながらも、家の体面や運命によって愛を引裂かれ、あわれにその命を終える物語は、映画新派劇などで繰返し上演され、肺結核のイメージを文化史的につくりあげた。
  • 堀辰雄の『菜穂子』はサナトリウムにおける末期患者を主人公にしたもので、『不如帰』とはまた別趣の静謐な悲劇的イメージによって結核を描いている。薄倖の可憐な少女が死の影におびえながら生を養う、というサナトリウムの通俗的観念が成立するにあたって大きな影響を与えた作品である。ちなみに堀自身も結核で長い病床生活を送り、病死している。
  • トーマス・マンの『魔の山』は結核患者のための高原サナトリウムを舞台にした壮大な対話による小説で、閉鎖空間としてのサナトリウムを哲学的に描いた大作である。また健全な美と不健全な美に同時にあこがれるマンの文学において、結核患者たちは不健全な美の体現者としても描かれており、日本の結核文学との捉えかたの相違に特徴がある。
  • その他、結核で命を落とした歴史上の人物は数知れない。これは結核が文字通り「不治の病」であり、広く伝染しうるものであることを示すものである。実例を挙げると、

[編集] 参考文献

<references/>

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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