水生類人猿説

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アクア説 (Aquatic Ape Hypothesis: AAH, Aquatic Ape Theory: AAT) とは、ヒトがチンパンジー等の類人猿と共通の祖先から進化する過程で、水生生活に一時期適応することによって直立歩行、薄い体毛、厚い皮下脂肪、意識的に呼吸をコントロールする能力といった他の霊長類には見られない特徴を獲得したとする仮説。古人類学においては主流の説ではない。

目次

[編集] 概略

霊長類においてはヒトにのみ見られるとされる特徴のいくつかが水棲哺乳類・水棲鳥類では一般にみられることが、この説の根拠となっている。およそ500万年より以前の人類の祖先の化石が発見されていないミッシングリンクと呼ばれる時代におけるヒトにつながる進化の過程について提唱されている仮説のひとつ。

注)オロリン、サヘラントロプスなど、500万年以前にチンパンジーの祖先と分かれて間もない頃と思われる化石の一部が発見されている。断片的な化石であるため詳細はわからないが、彼らが水棲であったという事を示す証拠は見つかっていない。

1942年ドイツ解剖学者、マックス・ヴェシュテンヘーファーによって最初に提唱され、1960年には英国海洋生物学者、アリスタ・ハーディー卿が別個に同様の説を発表した。1972年に英国の放送作家、エレイン・モーガンがその著作で取り上げたのがベストセラーになり一般に広まった。

経済人類学研究者の栗本慎一郎は、この水生類人猿説に立脚した人類史の議論を2005年刊行の著書『パンツを脱いだサル-ヒトは、どうして生きていくのか』で展開している。

日本の前衛科学評論家、斎藤守弘は、この説をなぎさ原人説と呼び、一部ではこの名称でも親しまれている。なお、水生類人猿説が示すのはヒトの祖先が類人猿から猿人へ進化した時期についてであるので、なぎさ“原人”としているのは誤解を生じる恐れがあるので注意。

[編集] 根拠

  • ミッシングリンクの時代には海水面が高く、アフリカ大陸は北部の大部分が沈んでいた。人類の祖先はこの時に海辺で生活し、海水面が元通りになると陸生活に戻った。
  • 体毛が薄く皮下脂肪が多いのは、水中で温度を保つのに都合がよいからだ。これは他の水棲哺乳類と同じ理由である。
  • 海水中生活に適応した人類の祖先は、海水を離れた後も川辺で暮らした。川辺は失った水分をすぐに調達できる環境であったため、発汗のシステムは都合が良かった。
  • 女性の頭髪が長い(伸び方が早い)のは、体が水に浸かっている時に子供を頭髪に掴まらせるためである。妊娠中に頭髪が太くなるのもこれが理由である。赤ん坊が好んで女性の髪の毛を掴んで引っ張るのも、かつて水中で子育てしていた頃の名残である。
  • 発涙のシステムは海棲哺乳類・鳥類にのみ見られる特徴である。海棲鳥類は塩分を排出するために涙を流すが、海棲哺乳類の場合感情が激した時に涙を流すことがある。
  • 直立二足歩行は、海水に浸かった時に顔だけを出すのに有効である。また他の水棲哺乳類やペンギンも同じ姿勢をとる。
  • 他の水棲哺乳類と同様に頭から尻まで一直線になっているため対面性交の形をとった。
  • 洗練されたバランス感覚と柔軟な背骨は、水中という視覚などによる指標のない世界で泳ぐのに必要だった。水棲哺乳類には人間よりも鋭いそれらがあり、アシカやイルカの芸は水族館でお馴染みである。
  • 水中に入ると心拍数が減る現象「潜水反射」が人間にも備わっている。
  • 一時期の胎児には名残が残っており、全身を毳毛(ぜいもう)と呼ばれる毛で覆われているが、この毳毛は泳いだ時に水が流れる方向と一致している。
  • 現代の人間でも水中に長時間いて助からないと思われていても助かった例がいくつも報告されている。
  • 胎児の手足に一時的に水かきが発生するのは、かつて水棲していた頃の名残である。
  • 手足に水かきの痕跡を持つ人がいる。
  • 生後間もない幼児は水を怖がらず、水中で反射的に息を止める能力を持っている。
  • 人間の新生児は他の類人猿よりも割合として重いが、これは皮下脂肪により浮力をつけて水中での出産を容易にするためである。
  • 水中では嗅覚が役に立たず、衰えた。
  • ケニアの湖で死因がビタミンA過剰症と見られる原人の化石が発見された。膨大な量の魚を食べていたと考えられる。
  • 上唇の上の溝(人中)を持つ霊長類は人間だけである。これは上唇を鼻孔にぴったり密着させて水中で呼気が漏れたり、水が侵入するのを防いだ名残と考えられる。
  • 女性の外性器が隠れているのは、体の表面積を減らした方が水中生活では有利なためである。

[編集] 反論

  • 仮説の根拠の裏付けとなるような化石が発見されていない。
  • 類人猿は水を怖がる。また人間にも泳げない人がたくさん存在する。むしろヒトは訓練しないと泳げない例外的な動物である。
  • 水棲哺乳類は総じて脚の退化が見られる。
  • 森林棲のコビトカバを祖先にもつカバ以外、陸上で胴体を引きずらずに歩行できる水棲哺乳類には密生した短い毛が全身にある。
  • 鼻孔を閉じる能力がない。
  • 胎児の手の水かきは、ミッシングリンクよりはるか以前の、両生類時代の名残である。
  • 猿人・原人化石の中には、死後に遺体が水に没したために水成層から出土するものもあるが、多くは陸成層中から発見される。
  • 水棲動物ではよく発達している瞬膜(水から目を守る膜)が人間では完全に退化している。
  • 「潜水反射」自体は、人間以外の哺乳動物にも普通に見られるものである。
  • ヒトは顔に水が触れると交感神経が興奮する。モーガンの主張と正反対の現象が起こる。
  • ヒゲを除去しない限り上唇で鼻孔を密閉することはできない。直立二足歩行以前に類人猿が毛抜きやひげ剃りを使用していた可能性は低い。
  • 魚の食べ過ぎで死んだのなら魚食に適応していなかった証拠である。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • Hardy, A. C., "Was man more aquatic in the past?," New Scientist, 7,642-645 (1960).
  • Hardy, Alister, "Has Man an Aquatic Past?," The Listener and B.B.C. Television Review, Vol.LXIII, No.1624, May 12, 1960, pp.839-841.
  • Westenhöfer, Max . Der Eigenweg des Menschen, Belrin:Mannstaedt & Co.,(1942).
  • エレイン・モーガン(望月弘子訳)『女の由来-もう1つの人類進化論』、どうぶつ社、1997年12月。ISBN 4-88622-300-1 ※原著改訂版の翻訳。原著初版の翻訳は、中山善之訳『女の由来』(二見書房、1972年)。
  • エレイン・モーガン(望月弘子訳)『人は海辺で進化した-人類進化の新理論』、どうぶつ社、1998年3月。ISBN 4-88622-302-8
  • エレイン・モーガン(望月弘子訳)『子宮の中のエイリアン-母と子の関係はどう進化してきたか』、どうぶつ社、1998年9月。ISBN 4-88622-305-2
  • エレイン・モーガン(望月弘子訳)『進化の傷あと-身体が語る人類の起源』、どうぶつ社、1999年1月。ISBN 4-88622-307-9
  • エレイン・モーガン(望月弘子訳)『人類の起源論争―アクア説はなぜ異端なのか?』、どうぶつ社、1999年12月。ISBN 4-88622-311-7

[編集] 外部リンク

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