戦略
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
戦略(せんりゃく)とは、特定の目標・目的を達成するために作成される原則的、総合的かつ長期的な術策・計画のことであり、実践的・実務的な方法論である戦術の上位概念として位置づけられる。ただ、時代・地域・分野によってその意味は異なる場合がある。
目次 |
[編集] 定義
戦略概念が戦術学の中から発展してきたという歴史的な経緯もあるために戦略の定義は非常に多様であり、一概に言うことは難しい。近代的な戦略概念はナポレオン1世が始めて用いたと考えられているが、この当時はまだ「大戦術」という言葉を用いていた。マイゼロアは戦史研究から西欧で初めて戦略という用語を使用して戦略の概念を西洋に普及させた。日本陸軍においては戦略とは作戦計画してその実行を統裁し、作戦行動の方向・目的・時期・場所などの関係を定めて適切に制御し、会戦を優勢に導くための方策であった。また日本海軍では戦略は敵と離隔した状態における戦力を運用する兵術と定義していた。秋山真之提督は戦略を戦術の上位においてこれを指導し、よって戦闘の時期・場所・戦力などを定めるものであると位置づけていた。またモルトケは戦略を見通し得る目的の達成のために将帥に委任された手段の実際的な運用であるとした。ハーバード大学のトーマス・シェリング教授は戦略は勢力の適用ではなく潜在的な勢力の発掘であるとして取引のプロセスというモデルでこれを説明した。またロジンスキー教授は戦略を力の総合的な制御であると定義して戦術はその直接的な運用であると論じ、つまり戦略とはあらゆる行動の総合的な調整と最適選択であると考えた。ただし近年では企業経営やスポーツにまで軍事用語の戦略の概念が応用されているために新しく定義されるようになり、長期的・大局的な観点から物事を見通して行動を調整する技術として再認識されるようになっている。
[編集] 概説
将来を見通した意思決定を行う場合、何らかの一般的・原則的な基準となる方針が必要である。その必要性から外的・内的な状況を総合的に分析して立案される方針が戦略である。この概念はさまざまな分野で用いられており、例えば政治・経済・軍事・経営がそれにあたる。また転じて生物学の分野においても、生物の生存のための戦略として用いられる場合もある。これらの概念は分野ごとの互換性がないため注意を要する。
[編集] 歴史
世界で最初に戦略の概念を使用したのは孫子と考えられている。戦略という言葉こそ出てこないものの、国家戦略から戦術論などレベルに応じた思考法を示しており、今日においても孫子は極めてすぐれた戦略教書と考えられている。戦争に代表される闘争行為/競争行為を目的-戦略-戦術と階層化・体系化して、各レベルにおける最適解を求めるアプローチ及びそれに伴う組織論は、カール・フォン・クラウゼヴィッツが、その著書『戦争論』において確立したものであり、いわゆる戦略論が展開されるときは、この基本スキーム下にあると言っても過言ではない。それ以降、以下に例示するように、戦略という言葉はさまざまな分野で使われている。
[編集] 構成
戦略は本来的には軍事用語であったが、時代とともに戦術や政治・経済などの概念も取り込んで重層的な構造を形成するようになっていった。現在の戦略概念の構成はおおむね以下のように考えられている。
- 国家戦略(national strategy)とは国家の全体的な戦略である。大戦略、統合戦略、全体戦略ともいわれる。
[編集] 軍事における戦略
軍事戦略は軍事政策すなわち軍事力の造成、整備や武力行使の際の作戦行動に関する全体的な戦略である。外交戦略とも密接に関係しており、まとめて安全保障戦略として考えられることともある。陸軍戦略、海軍戦略、核戦略などが下位の戦略として存在している。(軍事戦略を参照)
[編集] 政治における戦略
政治レベルの戦略は大戦略・国家戦略と呼ばれる。国民の至上目的と使用可能な資源と手段に基づき、国内・国外情勢を総合的に判断して策定される。20世紀にジョルジュ・クレマンソーやリデル・ハートによって提唱された概念である。この国家戦略に基づいて軍事戦略、外交戦略などが策定される。
[編集] 経営における戦略
経営戦略論においても「戦略」と「戦術」というクラウゼヴィッツ以来のスキームが適用されている。しかし、軍事戦略におけるそれとは異なり、両者を明確に区別することなく、戦術に相当することも「~戦略」と言われるなど、用法は極めてあいまいである。一般的には「戦術」という用語は経営戦略論では使われない。以下のように用いられる場合がある。
[編集] ゲーム理論における戦略
ゲーム理論において戦略(game theoretical strategy)とは、発生事象に対する、特定の反応行動の一連のリストというべきものである。長期的であるかどうかとは無関係である。戦術の上位概念とも関係が無い。
- マクシミン戦略(max-min strategy)
- ミニマックス戦略(mini-max strategy)
- 最適戦略(optimal strategy)
- 混合戦略(mixed strategy)
- 相関戦略(correlated strategy)
- マルティンゲール戦略(Martingale strategy)
[編集] 生態学における戦略
生物学の分野、特に生態学の個体群生態学や行動生態学の分野では、個々の生物種、あるいは個体が進化の上で身につけた行動や習性などを考える場合、いくつかありうる方法の中で、いかなる特定の性質や行動、あるいはそれらの組み合わせがより多くの子孫を残していく上で効果的であり、進化の過程で淘汰により選択を受けて残ってきたかを考えるとき、それらを戦略と呼ぶ。例えば捕食行動における待ち伏せ戦略、繁殖戦略、その中での小卵多産戦略、個体群増加に関するr-K戦略説、最適戦略選択説、生活史戦略などのように使われる。
[編集] 関連項目

