性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

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性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
通称・略称 性同一性障害特例法、性同一性障害者特例法
法令番号 平成15年7月16日法律第111号
効力 現行法
種類 民法(戸籍法)
主な内容 性同一性障害者の性別の取扱いの変更に関する手続
関連法令 民法戸籍法、特別家事審判規則
条文リンク 総務省法令データ提供システム

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(せいどういつせいしょうがいしゃのせいべつのとりあつかいのとくれいにかんするほうりつ、平成15年7月16日法律第111号)は、性同一性障害者のうち特定の条件を満たす者に対して、家庭裁判所審判を経ることによって法令上の性別の取り扱いを性自認に合致するものに変更することを認め、戸籍上の性別記載を変更できるものとした日本の法律である。性同一性障害特例法性同一性障害者特例法、あるいは単に特例法とも呼ばれている。2004年(平成16年)7月16日に施行された。

2004年7月28日、那覇家庭裁判所は沖縄県在住の20代の戸籍上男性を女性に変更する審判を出し、これが本法初の適用事例とみられている。また同年8月27日、東京家庭裁判所は東京都在住の30代の戸籍上女性を男性に変更する審判を出し、これがFtM(女性から男性へ)初の認容事例と思われる。

目次

[編集] 変更の条件

ここでいう性同一性障害者とは、専門的な知識を有する医師2名以上によって「性同一性障害」の診断を受けている者であり、日本精神神経学会の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」における定義と概ね一致している。 上記定義による性同一性障害者が次の5つの条件を満たすとき、家庭裁判所の審判によって許可を得れば性別の変更が認められる。

  1. 20歳以上であること
  2. 現に婚姻をしていないこと
  3. 現に子がいないこと
  4. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
  5. その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

4, 5の条件は、性別適合手術を受けていることに概ね対応すると言えよう。

[編集] 成立の経緯

医療技術の進歩により、性同一性障害に対して、ホルモン投与や性別適合手術を用いて当事者の精神的苦痛を軽減し、性自認に合わせて社会適応させることが可能となってきた。しかしながら、戸籍上の性別が出生時の身体的性別のままでは、公的な証明書を必要とする社会的局面において不都合を生じる。例えば、外見と性別記載が食い違っているために本人確認に問題を生じ選挙権を行使できなかったり、また偏見を抱く者から差別を受けることもあった。

そのため、性同一性障害当事者団体などが中心となり、戸籍中の続柄の記載に錯誤があり戸籍法113条の要件を満たすものとして、家庭裁判所に対し戸籍訂正許可の申立てが幾度もなされた。しかし、裁判所は戸籍の記載に錯誤があるとは言えない点や、現行制度がかかる理由(事後的に生じた錯誤)による戸籍訂正を認めておらずこれを認めると各種の不都合が生じるといった点を指摘した上で、「立法により解決されるべきである」とし、申立てを却下してきた。

自民党は2000年(平成12年)9月に性同一性障害に関する勉強会を発足し、本法案を含む性同一性障害の法律的扱いについて検討してきた。南野知惠子参議院議員が中心となって本法案をまとめ、2003年7月1日、参議院法務委員会に法案を提出、以降両院本会議でいずれも全会一致で可決、成立した(7月10日)。

[編集] 比較と位置づけ

性同一性障害者が被る制度的な不都合を解消するための、例えば出生証明書などの性別記載を変更する法制度はほとんどの先進国に存在している。

2002年7月11日には欧州人権裁判所 (European Court of Human Rights) 大法廷が、17裁判官全員一致でイギリスの性転換者の出生証明書性別訂正の訴えを認めたことにより、欧州での法的論争には終止符が打たれた (Goodwin vs. UK & I vs. UK)。この判決に従い、英国では2004年7月1日にジェンダー公認法 (Gender Recognition Act 2004) が成立し、欧州で法的手当て(法律・政令・判例など)がなされていない国は、アンドラアルバニアアイルランドのわずか3か国となった。

欧州以外にもアメリカカナダのほとんどの州、韓国台湾中国で、公的性別の訂正は認められている。

日本ではこの方面の法整備は著しく遅れていた。性同一性障害当事者を中心に、本法の成立によって一歩前進したという見方は多い。

前述の戸籍法113条に基づく申立てに関する裁判例においても、日本に独特の戸籍制度の維持が大きなネックとなっていたが、本法は戸籍制度を維持しつつ、性同一性障害に対処することにある程度成功していると思われる。ただ、成立時の内容ではごく一部の当事者しか救われず、まだまだ大きな改善を要する。

[編集] 批判

[編集] 「20歳以上」に関して

性別記載は社会的に生活する上で重要な意味を持ち、多方面に影響する。このような重大な決定をするに足る自己判断能力を確保するために、一定の年齢制限を設けざるを得ないという意見はおおよそ支持されている。

しかしながら、具体的に何歳に境界線を設けるかについては様々な意見がある。

  • 20歳を適当とする意見
    • 選挙権をはじめ、法的に成人として扱われる。
  • 18歳を適当とする意見
    • 児童福祉法の定義における「児童」を脱する。
    • 「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」に基づく治療においては、本法に定める4, 5の条件を満たすための施術の対象を18歳以上と定めている。
  • 15歳を適当とする意見
    • 民法に定められている改氏や遺言が15歳以上とされていることから、これに準じる。

[編集] 「現に婚姻をしていないこと」に関して

この条件は「同性婚の成立している状態を排除する」ために生まれたと見られている。日本国憲法第24条をはじめ、日本の諸制度は同性同士の結婚を想定していないため、整合性を保つためにはやむを得ないと言う意見もある。

性同一性障害当事者団体、同性愛者団体、人権団体を中心にこの点について批判も出ている。多くは、性同一性障害者に限らず同性婚を認めるべきと言う意見に基づくものであり、同性婚の可能性を積極的に排除する必要はなかったというものである。

[編集] 「現に子がいないこと」に関して

母親が2人、あるいは父親が2人存在することになり、子供の地位が混乱することを防止するためと言われている。

しかし、身体上の性に合わせて生活しようと必死になった結果として無理矢理結婚して子をなしているケース、あるいは発症が遅れたために結婚・出産後に性同一性障害の症状が現れたケースも存在するという。

主に性同一性障害者当事者団体から次のような批判が出ている。

  • 子が存在するという事実はいまさら変更不可能
  • 通常、親より子供の方が長生きすることを考えると、事実上子持ちの当事者の戸籍変更は永久に不可能になる
  • 欧米の立法例を見ると、「子がいないこと」という条件を加えた例は存在しない
  • 現実に、戸籍の性別変更が可能なレベルまで治療が進んだ当事者は、実際には子も親を『現在の性別』で認識している場合が殆どなので、『子供の混乱』はあり得ない
  • 戸籍の性別が外見の性別と異なることにより、社会的に不利益を被る可能性が高く、場合によっては失職につながることも充分に考えられる。収入の道が途絶えることにより、むしろ『子の福祉』に大きく反する

[編集] 「生殖腺」「性器に近似する外観」に関して

男性としての生殖能力を持っている人間を女性とは認めがたい、あるいは男性器に類似する構造を持っていない人間を男性とは認めがたい、という意見は多い。そのため、社会でその性別として完全に受容可能であるためにはこの条件はやむを得ないという声もある。

しかし、一方では「健康上・経済的理由に基づき手術不可能である当事者の道を閉ざす」という批判が存在する。

「身体的に完全に男性あるいは女性のどちらかに属する人間だけを社会が受容する」という思想に基づいている点で、半陰陽者の人権問題とも関連すると思われる。

性同一性障害に遺伝的要因が関わっている可能性もあることから、性同一性障害者が子孫を残させまいとする優生思想が背景にあるのではないかと疑う者もいる。

[編集] そもそも、性別を変更することに関して

性同一性障害者が存在することや、性別の変更を認めることに関して、「何だか良くわからないけれども受け入れがたい」という声も挙がっているが、大半が未知への恐怖であると推測される。

[編集] 悪用の懸念

「犯罪者が身を隠すために性別の変更を悪用するのではないか」という意見もある。この意見に対しては次のような指摘がある。

  • 性同一性障害の診断法は確立しているので、性同一性障害でない犯罪者が医師を欺いて性別変更にまで至ることは非常に困難である。
  • 実際に性同一性障害である者が犯罪を犯した場合も、変更が認められるまでには相当の長期間にわたって医療機関や裁判所と関わることが必要であるので、身を隠す手段としては適当でない。
  • 書類上の性別記載を外見や生活実態に適合させることになるので、むしろ犯罪捜査をしやすくなる。

[編集] 立法化したことに関して

法学者医師の間では「戸籍法113条で解決すべき問題であり、立法化したことは間違い」という批判もある。

裁判例の多くは、「出生時の外性器」や遺伝子と戸籍上の性別記載が一致していることをもって「錯誤は存在しなかった」とする。しかし、このような裁判例に対しては、人間存在を考える上で精神・社会的存在としての側面を無視することがナンセンスであり、医師が「確かに、身体的性別と一致しない性自認を有している」と確認した以上、それは「出生時に外性器だけで大雑把に性別を判定したので、その判定に錯誤があった」と解釈すべきである、と批判する。

性同一性障害を持つ人の性別訂正については、国内で公式な性別適合手術を終えた当事者を中心とする6人が2001年5月、各地の家裁に戸籍の訂正を一斉に申し立てている。

2003年6月、埼玉医大で女性から男性への性別適合手術を受けた当事者が、戸籍の性別の訂正を求めた特別抗告で、最高裁第2小法廷は、その訂正を認めない決定をした。

最高裁は「(憲法違反ではなく)適法な(特別抗告の)理由に当たらない」としている。

[編集] 残された課題

国会での審議が実質ゼロだったこともあり、性別変更に伴い発生する法律問題が未解決のまま残されている。

  • 性犯罪(強姦罪など)の適用の可否(妊娠しないMTFが強姦罪の客体たりうるか、妊娠させられないFTMが同罪の主体たりうるか)
  • 婚姻した一方または双方が当事者の夫婦が第三者の子である未成年者を養子に取れるのか(家庭裁判所の許可が必要なため)
  • 養子縁組をしたパートナーの一方または双方が性別変更をし、離縁した後に婚姻できるか(現行民法では禁止)

など。 また、5つの要件に関しても再考を要する。 特に『現に子がいないこと』要件は、当事者間において差別の再生産となり得る、あるいは一般社会での誤解を助長しかねないとして、当事者間でも識者の間でも特別に問題視されている。なお、現在この要件が盛り込まれているのは、日本のみであり、性同一性障害の研究が日本より進んでいる各国では、このような要件は無い。 また、『現に子がいないこと』『現に婚姻をしていないこと』に関して、このように当事者が婚姻に踏み切ったのは、本来の性別に反してまでも社会に自分をなじませようと努力した結果のことであり、そのように、『性同一性障害』という概念が社会に広く認知される以前に、血のにじむような覚悟で社会に適合しようとした者を、この2要件で切り捨ててしまうことを問題視する識者や政治家も存在する。

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • 日本精神神経学会「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第2版)」[1]
  • 平成15年7月16日、官報 号外第162号
  • 国会議事録

[編集] 外部リンク

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