ドンガン語

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ドンガン語(東干語)
Хуэйзў йүян
回族語言
話される国 キルギスカザフスタンウズベキスタンタジキスタントルクメニスタン
地域 中央アジアフェルガナ盆地
話者数 4万1,400 (2001)
順位 -
言語系統 シナ・チベット語族
 漢語
   ドンガン語
公的地位
公用語 -
統制機関 -
言語コード
ISO 639-1 -
ISO 639-2 sit
ISO/DIS 639-3
SIL dng

ドンガン語東干語)は、中央アジアキルギスなどでドンガン人と呼ばれる民族によって使用される言語である。

目次

[編集] 概要

ドンガン人は、19世紀、国で民族蜂起に失敗し、ロシア帝国領に逃れ住んだ中国ムスリムである回民(現在の回族)や、新天地を求めて移住した回民の子孫である。

回民(回族)は中国語の方言を母語としており、隔絶された環境下でドンガン語は清代の中国語の語彙を今も保っている。このため、ドンガン語を、もともとの居住地域である甘粛方言または陝西方言と同じく、北方方言に属する中国語の方言とする学者も多い。

しかし、イスラームに関わる用語を中心にアラビア語ペルシア語キルギス語などのテュルク諸語に起源する語彙を含んでいるほか、移住先の言語であるロシア語の語彙も政治用語、科学用語を中心に数多く取り入れられている。また大きな特徴として、表記は漢字ではなく、キリル文字で行っているため、中国語から派生した別の言語という見方もある。

現在の正書法ソ連領内の少数民族が使う言語は基本的にはキリル文字を応用して書き表すという、1950年代のソ連の方針に沿って変更されたものである。キリル文字化される以前には、漢字や「小児経」と呼ばれる漢語の口語をアラビア文字で音写したものも表記に用いられていた。また、1928年にはラテン文字が用いられ、その後1932年に修正したラテン文字による正書法が採用された。その後1953年に現在のキリル文字による正書法が制定された。

ドンガン語は中国語と同じく声調の違いによって語の意味を区別する。声調は4種をもつ方言もあるが、甘粛系の標準的なものは平声上声去声の3種である。しかし、キリル文字による正書法に声調は反映されていないため、同じ綴りで異なった発音、異なった意味になる語が多い。単語を見ただけではどういう声調で発音すべきか不明な場合があるため、辞書によってはローマ数字を書き加えて区別している。


ドンガン語の出版物としては、旧ソビエト時代に当時のキルギス共和国で「十月の旗」(Shiyuedi chi)という新聞が発行されていた。また「回民報」(Hueimin Bo)なども発行されていたという。

また、カザフスタンでは「回族報」(Hueizu Bo)が発行されていた。「回族報」は2002年3月ごろに復刊された半年刊の新聞でドンガン語のほか中国語、ロシア語が用いられていた模様。

ドンガン語による書籍は多くないが、詩集や民話集などの文学作品がキルギスを中心に発行されている。

[編集] 文字

1932年から1953年の間は、ローマ字を拡張した下記の文字が使用された。

A a В в C c Ç ç D d E e Ə ə F f
G g Ƣ ƣ I i J j K k L l M m N n
Ņ ņ O o P p R r S s Ş ş T t U u
V v W w X x Y y Z z Ƶ ƶ Z̧ z̧ ƅ

1953年キリル文字を利用した下記に移行された。

А а Б б В в Г г Д д Е е Ё ё Ә ә
Ж ж Җ җ З з И и Й й К к Л л М м
Н н Ң ң О о П п Р р С с Т т У у
Ў ў Ү ү Ф ф Х х Ц ц Ч ч Ш ш Щ щ
Ъ ъ Ы ы Ь ь Э э Ю ю Я я


[編集] 発音

[編集] 声母

現行表記、旧表記、ピンインIPAの対応は下記の通り。

ドンガン語の声母表
無気音 有気音 鼻音 摩擦音 有声音
現行 ピンイン IPA 現行 ピンイン IPA 現行 ピンイン IPA 現行 ピンイン IPA 現行 ピンイン IPA
б в b [p] п p p [pʰ] м m m [m] ф f f [f] в v w [w]
д d d [t] т t t [tʰ] н n n [n] л l l [l]
з z z [ts] ц c c [tsʰ] с s s [s] р r [r]
җ zh [tʂ] ч ç ch [tʂʰ] ш ş sh [ʂ] ж ƶ r [ʐ]
j [tɕ] q [tɕʰ] щ x [ɕ] й j y [j]
г g g [k] к k k [kʰ] ң ņ ng [ŋ] х x h [x]


[編集] 韻母

漢語系音節に関する韻母の現行表記、旧表記、ピンインIPAの対応は下記の通り。

ドンガン語の韻母表
現行 ピンイン IPA 現行 ピンイン IPA 現行 ピンイン IPA 現行 ピンイン IPA
ы ƅ i [ɨː] и i i [iː] ў w u [uː] ү y ü, u [yː]
а a a [aː] я ja ia (ya) [ia]([jaː]) уа ua ua [ua]
ә ə e [әː] е je ie (ye) [iә]([jәː]) уә uo [uә] үә üe, ue [yә]
э e ê, ai [ɛː] уэ ue ue, uai [uɛ]
о o o, ao [ɔː] ё jo iao (yao) [iɔː]([jiɔː]) уэй wj ui [uɛi]
ый ƅj ei [ei] уй vi wei [uei]
у u ou [ou] ю ju, jy iu (you) [iou]([jou])
ан an an [æ˜] ян jan ian (yan) [iæ˜]([jæ˜]) уан uan uan [uæ˜] үан yan uan [yæ˜]
он on ang [aŋ] ён jon iang (yang) [iaŋ]([jaŋ]) уон uon uang [uaŋ]
ын ƅn eng, en [әŋ] ин in ing, in [iŋ] ун wn ong [ʊŋ] үн yn iong, un [yŋ]
эр әƣ er [әɻ]

現在のドンガン語表記単独で音節をも構成しうるものについては、対応するピンインの表記、発音を括弧内に示した。 上記表の韻母以外に、児化音(母音+р [ɻ])とロシア語、キルギス語、アラビア語などからの借用語にのみ見られる音節がある。

[編集] 声調

ドンガン語と中国語(北京音)の声調
声調番号  声調名  漢字 甘粛系 陝西系 中国語 備考
声調パターン 調値 声調パターン 調値 声調パターン 調値
第1声 陰平声 хуа 中昇調 24 高降調 51 高平調 55 標準的な甘粛系ドンガン語では陰陽の区別がない平声で、これをⅠと注記する辞書あり。
第2声 陽平声 хуа 中昇調 24 中昇調 35
第3声 上声 во 高降調 51 高降調 53 低降昇調 214 Ⅱと注記する辞書あり。
第4声 去声 Чў 高平調 44 高平調 44 高降調 52 Ⅲと注記する辞書あり。
一部は中国語では陰平声。
なし 軽声 зы 短音 不定 短音 不定 短音 不定 前の声調により高さは異なる。


[編集] 語彙

基本語彙は中国語の北方方言と共通しているものが多い。特に、出身地の甘粛省や陝西省の方言と近い語彙が基本となっており、北京語とは異なる語彙の場合もある。


また、代の語彙が残っているものもある。

     ドンガン語(対応漢字) : 標準中国語 : 意味
 例:  ямын (衙門) : 政府 : 役所
     хуанди (皇帝) : 總統 : 大統領

イスラームに関わる用語を中心にアラビア語ペルシア語テュルク諸語からの借用語を含んでいる。

移住先の言語であるロシア語の語彙も取り入れられている。

[編集] 方言

清代に移住してきた際の出身地によって、大きく甘粛系と陝西系の2大方言に分かれる。甘粛系方言が標準的なドンガン語とされ、主にキルギスのビシュケク郊外を中心とするチュイ峡谷地域で話されている。甘粛系方言を話すグループをビシュケクグループと呼ぶ学者もいる。このグループには寧夏出身の人たちも含まれる。陝西系方言は、主にカザフスタンウズベキスタンに分布しており、トクマクグループと呼ばれる。

両方言の違いは、主に発音面と語彙面にある。甘粛系方言は、声調において、平声の陰陽の区別がなくなり、3種となっているのに対して、陝西系方言は4種を維持していることが多い。声母に関しては甘粛系方言で、「書」など、北京音の[ʂ]の一部が[f]に変わっているのに対して、陝西系方言は[ʂ]の場合がある。また、甘粛系方言の歯茎破裂音[t][tʰ]が陝西系方言では[i]の前で口蓋化して[tɕ][tɕʰ]となるほか、甘粛系方言の[ɕ][tɕ]となる例がある。韻母については、北京音の[ou]が甘粛系方言で[u]となっているが、陝西系方言では北京音と同じである。

この他、異なる形態素を用いて表す語彙もある。以下に、発音または形態素が異なる語彙の例を示す。


甘粛系方言 陝西系方言 標準中国語 意味
жәту (日頭) эрту (日頭) tàiyang (太陽) お日様
щичё (喜鵲) җичё (喜鵲) xǐquè (喜鵲) カササギ
гә (角) җүә (角) jiǎo (角) つの
бынлу (奔棱) ңыйлу (額樓) qián'é (前額) ひたい
шыншын (嬸嬸) яя (芽芽) shūmǔ (叔母) 叔母

[編集] 参考文献

  • Jusup Janşansƅn 『Z̧wn-jan Xua Litudi Şƅnjin De Z̧wnjin』(フルンゼ、Киргизгосиздат、1940年)
  • 林涛 編 『中亞東干語研究』(香港・香港教育出版社、2003年)- ISBN 962-7484-93-8

[編集] 関連項目

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