ステンレス鋼

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ステンレス鋼(stainless steel)は、耐食性を向上させる為に、クロムを含ませた合金鋼である。に約10.5%以上のクロムを含ませた合金を指し、しばしばニッケルも含ませる(JIS G 0203「鉄鋼用語」の定義による)。ステンレススチール不銹鋼(ふしゅうこう)とも言うが、一般的にはステンレス、または略してステンなどと呼ばれる。JISにおける略号はSUS(サス)。

目次

[編集] 概要

ステンレス鋼は、含有するクロム(Cr)が空気中で酸素と結合して表面に不動態皮膜を作る為に銹び難い。この為、銹を防ぐための鍍金や塗装をしなくても済み、屋外や湿気のある場所、化学薬品を扱う機械器具(13Cr)、厨房設備(18Cr/18Cr-8Ni)で用いられる。また、構造物や鉄道車両の外面、部品に用いられる(18Cr-8Ni)。マルテンサイト系ステンレスは焼き入れを行うことができるため、その硬度を利用して医療用メスや包丁などの刃物鋼として多用される。

近年は、誘導加熱(IH調理器)対応用の、ステンレス鋼でできたやかんが多く販売されているが、その多くは普通鋼やSUS430等の磁性を持つ鋼板の両側に(非磁性だが耐食性に優れた)SUS304を2枚サンドウィッチ状に接合させた3層鋼板で製造されている。

基本的な製造方法は普通鋼と同じだが、ステンレス鋼は普通鋼より強度が強いため、冷間圧延時には専用の圧延機を用いる(一部例外あり…「表面仕上げ」を参照)。

[編集] JISによる分類

JISによれば、ステンレス鋼は、その金属組織により次の5つに分類される。

  • マルテンサイト系ステンレス鋼(martensitic stainless steels)
  • フェライト系ステンレス鋼(ferritic stainless steels)
  • オーステナイト系ステンレス鋼(austenitic stainless steels)
  • オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(austenitic-ferritic stainless steels)
  • 析出硬化系ステンレス鋼(precipitation hardening stainless steels)

この内、フェライト系およびマルテンサイト系のステンレス鋼は一般に鉄-クロム合金(クロム鋼)であり、オーステナイト系ステンレス鋼は鉄-クロム-ニッケル合金(クロム-ニッケル鋼)である。また、この他にオーステナイトとフェライトの二相組織を持つ二相ステンレス鋼や、析出硬化を利用して強度の向上を図った析出硬化系ステンレス鋼もある。ステンレス鋼として最も代表的なものは、オーステナイト系の18%クロム8%ニッケル(18-8)ステンレス鋼である。

JISで規定するステンレス鋼材料の規格票の例をいくつか示す。

  • JIS G4303-1998 ステンレス鋼棒
  • JIS G4304-1999 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯
  • JIS G4305-1999 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯

また、代表的なステンレス材料の成分を上記から一部引用する。なお、厚板・鋼管などのステンレス鋼でも、成分系は基本的に薄板と同じである。規格名の後ろに「L」をつけることがある(SUS304Lなど)が、これは炭素量を極めて低く制御した鋼種であることを意味している。

  • SUS201(オーステナイト系)Ni(3.5~5.5%)、Cr(16~18%)、Mn(5.5~7%)、N(0.25以下)
  • SUS202(オーステナイト系)Ni(4~6%)、Cr(17~19%)、Mn(7.5~10%)、N(0.25以下)
  • SUS301(オーステナイト系)Ni(6~8%)、Cr(16~18%)
  • SUS302(オーステナイト系)Ni(8~10%)、Cr(17~19%)
  • SUS303(オーステナイト系)Ni(8~10%)、Cr(17~19%)、Mo(0.60%以下の添加ができる)
  • SUS304(オーステナイト系)Ni(8~10.5%)、Cr(18~20%)
  • SUS305(オーステナイト系)Ni(10.5~13%)、Cr(17~19%)
  • SUS316(オーステナイト系)Ni(10~14%)、Cr(16~18%)、Mo(2~3%)
  • SUS317(オーステナイト系)Ni(11~15%)、Cr(18~20%)、Mo(3~4%)
  • SUS329J1(オーステナイト・フェライト系)Ni(3~6%)、Cr(23~28%)、Mo(1~3%)
  • SUS403(マルテンサイト系)Cr(11.5~13%)
  • SUS420(マルテンサイト系)Cr(12~14%)…炭素量によって細かく分類される
  • SUS405(フェライト系)Cr(11.5~14.5%)、Al(0.1~0.3%)
  • SUS430(フェライト系)Cr(16~18%)
  • SUS430LX (フェライト系) Cr(16〜19%)、TiまたはNb(0.1〜1.0%)
  • SUS630(析出硬化系)Ni(3~5%)、Cr(15~17.5%)、Cu(3~5%)、Nb(0.15~0.45%)

また、JIS規格品以外にも各メーカーの独自鋼種が数多く存在する。

オーステナイト系非磁性体で、オーステナイト・フェライト系、フェライト系マルテンサイト系、析出硬化系は磁性体(強磁性体)である。ただし、オーステナイト系ステンレスの一部は、加工を繰り返すことで組織がマルテンサイト化し、磁性を帯びることがある。

ステンレス鋼の耐食性能は、基本的にCrの含有量で決定される。その他、Mo・Ti・Nbなどの添加元素も、耐食性の向上に寄与している。Niも耐食性に貢献するが、オーステナイト相を固定化するのがもっとも重要な役割である。

[編集] 表面仕上げ

ステンレス鋼は、主にその用途と求められる意匠性によって様々な表面仕上げを施して使用される。表面処理の中で、意匠的に鏡面に磨いたもの、ヘアライン加工したものは建築物の中で用いられることがあり、素地での仕上げとなる場合は傷を保護するビニールなどの皮膜が貼り付けられていることが多い。代表的なものは以下のとおり。

No.1
つや消しの白っぽい表面で、少しザラついた仕上がり。スラブを加熱してロールで延ばす熱間圧延の後、表面を酸で洗い、汚れ等を取り除いたもの。構造部材やリロール母材などに用いられる。
製造上1番目(熱間圧延)の工程で出来るため「No.1」と表す。流通では「白皮品」「酸洗材」などと呼ばれる。
2D
冷間圧延後、焼鈍と酸洗を行ったままの仕上げで、表面は銀白色の鈍い光沢。比較的柔らかいため、深絞り性を要求される場合に用いられるが、一般にはほとんど流通しない。
2B
2Dの後に、適度な光沢を得られるようにスキンパス(調質圧延)を施した仕上げで、ステンレス鋼ではもっとも一般的。
製造上2番目(冷間圧延)の工程で出来、仕上げがブライト(光沢のある)状態のため「No.2B」と表す。
BA
冷間圧延後光輝熱処理とスキンパスを行った、きれいな光沢のある仕上げ。意匠性を求められる部材に用いられることが多い。2B仕上げに次いで一般的。
No.4
2BまたはBAの素材に、F180前後の研磨加工をした仕上げ。研磨材としてはもっとも一般的なもので、厨房や建材用などに幅広く用いられる。
ヘアライン (HL)
2BまたはBAの素材に、髪の毛状の細い研磨目を連続してつけた仕上げ。エスカレーター側面などでよく見かける。
No.8
2BまたはBAの素材を#800程度のバフ研磨した、高い光沢を持つ鏡面仕上げ。鏡や装飾金具などに用いられる。
タンデム仕上げ(JIS規定外)
一部フェライト系ステンレス特有の仕上げで、冷間圧延時にステンレス専用の圧延機ではなく、普通鋼用の圧延機を通すことで、高い生産性を達成する。表面性状を問わない自動車排気系部品などに用いられる。

[編集] 取り扱い上の注意

ステンレス鋼の防銹性は、表面の不動態皮膜に依存するため、これが還元により破壊される要因に注意を要する。具体的には塩化物イオンなどが大量に存在すると、たとえステンレスといえども腐食が起こりうる。

また、ステンレス鋼は鉄に比べはるかに酸化されにくい(電位が高いという)ので、普通の鋼や異種金属と接続すると電蝕を起こす。ステンレスの流しに空き缶やヘヤピンをおくと極端に銹びるのは、このせいである。電気温水器はステンレスであるから、鉄管で接続すると約10年で鉄管が破裂する。

ステンレス鋼においても他の金属と同様、銹は銹を呼ぶ。銹は不動態皮膜に比べて遥に不安定であるため、水道水などに含まれる鉄銹が定着することが要因となって、銹が進行する(もらい銹)。

ステンレス鋼は普通鋼に比べて強度が高いが、構造用に用いるとクリープを起こすことがあり、注意を要する。また、オーステナイト系ステンレス鋼の一部は特定の環境下で応力腐食割れ(SCC)を起こすことがあるため、それを嫌う場合はフェライト系ステンレス鋼を用いるべきである。

特にオーステナイト系ステンレス鋼は熱伝導性が低いうえに熱膨張率が大きいため、高温環境下での使用には、設計上十分に注意する必要がある。また、切削や溶接時にも独特の温度管理が必要になる。なお、450℃近辺では、鋼種によってはCrが析出することで耐食性や機械性能が低下することがあるので、この温度域での使用は注意が必要。

オーステナイト系ステンレス鋼は伸びがよく、絞りや張り出し成形性も高いため、複雑な形状を作ることができる。加工硬化があるので、これを留意した設計をする必要がある。フェライト系ステンレス鋼はオーステナイト系に比べると伸び性能が劣るため、特に張り出し成形には注意が必要となるが、加工硬化は比較的小さい。なお、マルテンサイト系ステンレス鋼ではこうした加工は難しい。

ステンレス鋼は全般的に切削性が悪く、旋盤マシニングセンタなどで切削加工する場合、アルミニウムと比べ、被削面の塑性変形による加工硬化が大きい。そのためセレンリン硫黄などを加えた快削材も利用される。

[編集] 流通について

ステンレス鋼はそれを専門に扱う販売業者が存在して、市場を形成している。現在こうした市場から購入できる鋼種(店売り品種)は、数多くあるステンレス鋼種のごく一部…SUS304/304L、SUS316/316L、SUS430程度であり、従来は市中品の60%前後がSUS304で占められていた。また、メーカー規格品の一部は、系列の販売業者が在庫していることがある。これ以外の鋼種は基本的にメーカーで都度生産する事になるが、生産には一定のロットが必要となる(少なくとも7t以上)。また、2B・BA・No.4・HL以外の仕上げは、2B材を専門業者で研磨した製品(流通研磨品)となることが多い。

ステンレス鋼の流通形態は紐付きと店売りとに分かれる。 紐付きとはステンレスメーカーが最終ユーザーまで把握する形態である。(メーカー→商社→最終ユーザー)紐付き商売ではメーカーと最終ユーザーが直接価格交渉・納期調整を行うケースが多い。 店売りとは問屋が介在し、在庫販売及び切断等の加工を施しユーザーの小ロット・短納期というニーズに答えるべく機能する形態である。(メーカー→商社→問屋→各ユーザー)

日本市場のSUS304は、最近では韓国製など外国材の輸入が増加しており、一定の地位を市場で確立している。このため、必ず国内材を用いたい場合は、注文時にその旨を明示する必要がある。一方でこれ以外の鋼種はまだ国内材が大半である。

2006年からの原料ニッケル価格高騰などの影響で、特にオーステナイト系ステンレス鋼の価格は、1年間で2倍以上に上昇した。このため、(Niを含まないため)比較的価格の安いフェライト系ステンレス鋼へ鋼種変更する需要家が増加している。一般にフェライト系ステンレス鋼はSUS304に比べて耐食性に劣ると言われているが、メーカー各社は以前から耐食性を向上させたフェライト系ステンレス鋼を開発しており、2006年秋以降急速にその需要が高まっている。 その例として、新日鐵住金ステンレスが開発したNSSC180(旧YUS180)や、最近ではJFEスチールが開発したJFE443CTという新鋼種がSUS304代替ステンレス鋼として注目を浴びている。しかし殺到する注文に生産が追いつかない状況になっているらしい。

[編集] 呼称

俗に、ステンレス鋼を「ステン」や「サス」と呼ぶことがある。前者はステンレスの略であるが、「ステンレス=汚れない、銹びない」から否定辞lessを省いて、その特性と正反対の「汚れ」「銹」と呼ぶ奇妙な慣習となっている。後者は品種番号のプリフィックス「SUS」を英語読みした呼び方([sΛs])である。数字のついた鋼は混同しない場合に限り、SUS304を「サス・さんまるよん」とか、単に「さんまるよん」と呼ぶことがある。

[編集] 外部リンク

ことばこって?

「ことばこ」は、歴史の人物から最先端テクノロジーまで、なんでも調べられるオンライン百科事典です。ウィキペディア財団が運営を行なっているwikipedia.orgから引用をしています。

おススメサイト
トラブログ
アレどう?
アフィリエイトB